研究課題/領域番号 |
18K02989
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
武田 晃治 東京農業大学, その他部局等, 教授 (70408665)
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研究分担者 |
緩利 真奈美 東京農業大学, その他部局等, 助教 (70782647)
浅沼 茂 立正大学, 心理学部, 特任教授 (30184146)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 科学教育 / 教材開発 / 色素 / カリキュラム |
研究実績の概要 |
令和元年度に引き続き、サケの食物連鎖をテーマにしたサケの食物連鎖上の生物に含まれる色素に着目した実験教材や授業開発に取り組んでいる。また、アスタキサンチン含有餌を白色ザリガニに給餌する中で、青色とピンク色になる個体の存在が明らかとなっており、青色の脱皮殻を茹でるとピンクに変色することから、その要因として、色素結合タンパク質が推察された。そこで、ヨーロピアンロブスターの色素結合タンパク質の配列を参考にプライマーを作製し、青色とピンク色のそれぞれのザリガニ個体からゲノムDNAを抽出し、PCRによる遺伝子の増幅を試み、色に着目した遺伝教材の開発に取り組んでいる。 令和2年度はコロナ禍の影響もあり、サケの食物連鎖をテーマとした学校での授業実践研究を行うことが困難であった。そのため、学校での授業としてではなく、令和2年2月21日に東京農業大学教職・学術情報課程と経堂図書館との合同イベントを開催した。子どもから大人までの33名を対象として「生きものの色の意味を考えよう」というテーマで、サケの切り身がなぜオレンジ色なのかをサケの生態や食物連鎖から解説し、その原理を応用して作出したカラフルザリガニ、さらにはいろいろな色の生き物の観察やスケッチを行い、生き物の色に関する授業実践を行った。 基礎的研究では、令和2年度は新型コロナウィルス感染症の影響があり、予定していた調査活動はできなかった。そのため、主に文献の探索や論文執筆の準備を行った。その際には以前訪問したアメリカ合衆国ミシガン州立大学やマジソン大学、ホワイト・ウォーター大学でのインタビュー調査の結果をまとめ、それらに基づいて考察を行った。やはり米国の先進的な学校では発見学習的な教育法をベースとしていることがわかったため、日本の授業への示唆として、子どもたちがお互いの考えや興味を議論することの重要性や要点についてまとめるように努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響で、開発教材を用いた学校での授業実践研究を行うことが困難であったため、やや遅れている。 昨年度行ったサケを中心とした食物連鎖上の生物に含まれる色素の変遷を観察する実験教材として、ヘマトコッカス藻、オキアミ、サケの他、新たにクリオネを加え、アスタキサンチンに着目した色素の分離条件を確立した。 サケの食物連鎖を色に着目した授業開発として、実物や標本を活用した授業運営を検討している。その際、藻類やオキアミ、サケは入手しやすいが、クリオネは時期も限られ、入手が困難であった。現在知られているクリオネの標本はホルマリンにより白く収縮しており、本来の質感を維持した標本がない。そこで、質感や色味を維持した教材としての標本作製に取り組んでいる。 アスタキサンチン含有餌を白色ザリガニに給餌することで、青色とピンク色になる個体からそれぞれゲノムDNAを抽出した。ヨーロピアンロブスターの色素結合タンパク質の一部として知られるクラスタシアニンA1サブユニットの遺伝子配列を参考にプライマーを構築し、PCRによる相同性遺伝子の有無をそれぞれの個体で観察する増幅条件の検討を行っている。 理論研究では、これまでの調査研究の成果をもとに、子どもたちの科学に関する「議論」をベースとした科学教育のありかたについて考察している。文献研究のキーワードは「科学教育における議論」「コミュニケーション」「科学的探究の過程」である。科学教育における「議論」の問題はこれまでも指摘されており、現在も重要とされているはずだが、実際の授業では十分に展開されていない。教科書に掲示されている実験仮説について自らの考えを述べることが多く、答えのない「解」や未知の「解」についての議論は行われることは少ない。このような深いレベルの「議論」こそが深い理解をもたらすのではないだろうか。この点について、考察し、まとめたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
サケの食物連鎖を色から見る授業実践として、1時限目にはサケの食物連鎖上にある生物の実物や標本を活用し、サケの生態や食物連鎖を学ぶ授業、2時限目にはそれら生物から色素を抽出し、薄層クロマトグラフィーによる分離実験により、色素の変遷を観察する授業を計画している。 アスタキサンチン含有餌を白色アメリカザリガニに与えることで青色とピンク色に体色変化する個体を用いて、色の違いの要因を明らかにする。まず、ヨーロピアンロブスターの色素結合タンパク質であるクラスタシアニンA1サブユニットに着目し、両者のゲノム上での存在の有無を確認するための実験手法やPCRによる増幅条件を確立する。また、mRNAやタンパク質レベルで発現の有無を確認し、両者の色の違いの要因を明らかにし、動物色素に着目した新たな遺伝子・タンパク質教材の開発に取り組む。さらに、青色、ピンク色のそれぞれの個体の遺伝的な固定化を行っていく。 理論的研究では以下の2点を中心にまとめたいと考えている。一つ目はこれまで開発してきた教材を用いた単元構成の総括である。特に中学校、高等学校のカリキュラムの連続性を踏まえた単元計画を検討する。更には、本研究で提案した単元が現在の新学習指導要領における位置づけや、評価基準にも照らした運用可能性を見出したい。二つ目が前述したように「議論」を中心としたカリキュラム、教育方法の提起である。これは、これまで訪問した米国の科学教育から得た示唆を検討したうえで考察したい。特に直感的思考を具体的にどのように育むのか、その方策の事例をみることができたので、日本の教育への応用を考察していく所存である。また、「議論」を適切にカリキュラムに取り入れた実践例を収集し、米国における科学の探究学習との比較を行いながら今後の授業と教材研究に役立てたいと考えている。現在、国内の実践事例を調査するための計画を策定中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による影響で教材開発、授業実践研究が当初の予定通り進まなかったため、予定の予算執行ができず、繰越額が生じた。 次年度は、遺伝子・タンパク質教材開発としての基礎的実験を行うための試薬や、授業実践研究の際の授業や実験消耗品の購入に使用する。また、研究を通じて得られた成果について学会や論文雑誌等を通じて発表する際の経費、調査研究における出張費として使用する予定である。
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