研究課題
令和2年度に引き続き、サケの食物連鎖をテーマにしたサケの食物連鎖上の生物に含まれる色素に着目した実験教材や授業開発に取り組んでいる。本年度はサケの食物連鎖上にあるクリオネの質感や色を維持した標本教材を活用し、「無脊椎動物」と「軟体動物」を学ぶ単元での観察教材としての有用性を共同研究者の勤務先の中学校で検証した。現在、その成果の論文執筆に取り組んでいる。また、アスタキサンチン含有餌により、青色やピンク色に体色変化する白色ザリガニのそれぞれの個体群の色素結合タンパク質に着目した遺伝分野での教材開発に取り組んでいる。具体的には、最近報告されたアメリカザリガニのゲノム配列中から色素結合タンパク質の遺伝子配列の探索を行い、その配列をもとにしたプライマーを作製した。青色とピンク色のそれぞれのザリガニ個体から抽出したゲノムDNAを用いて、PCRによる両個体での着目している遺伝子配列の有無や比較検討をしている。さらに動物色素に着目した実験教材として、薄層クロマトグラフィーだけでなく、HPLCによる色素の分離実験として、アメリカザリガニの殻に含まれるアスタキサンチン色素の分離条件の検討を行った。新型コロナウイルス感染予防対策を徹底し、東京農業大学稲花小学校の3年生2クラス、茨城県つくば市茎崎地区小中高校生・保護者・地域住民の方、新・才能の芽を育てる体験学習自然体験教室での世田谷区小学生、埼玉県立桶川市桶川東中学校ザリガニ研究部の生徒を対象に授業実践を行った。授業内容としては、アメリカザリガニを題材に、外来種問題から科学教育への活用事例としてアメリカザリガニの色素含有餌つくりを行い、実際にその餌を給餌することで体色変化を観察した。理論的な研究としては、これまでの授業実践の結果をもとにどのような教育効果が得られ、その課題がいかなる点にあるのか、について論点を絞り単元開発の視点の提案を行った。
3: やや遅れている
遺伝教材としての実験教材の開発やコロナ禍の影響により開発教材を用いた学校での授業実践研究が十分でないことから、やや遅れている。「無脊椎動物」と「軟体動物」を学ぶ単元での観察教材として、中学1年生を対象としたアンケートからクリオネが海の無脊椎動物としてクラゲ同様に人気の生き物であることがわかった。そこで、クリオネの質感や色を維持した標本教材の有用性について中学生1年生を対象に検証した。その結果、本物同様の質感、色を維持していることから、観察教材として生徒に好評であった。現在着目しているアスタキサンチンに着目した実験教材として、教育用HPLC(ことり)を用いた分離条件の検討を行った。その結果、アメリカザリガニの殻から色素を抽出し、殻に含まれるアスタキサンチンの最適な分離条件を確立した。色素結合タンパク質(クラスタシアニンサブユニット)に該当するPROCLA000092.3遺伝子に着目した。研究室で飼育している青色、ピンク色に体色変化する白色ザリガニからそれぞれゲノムDNAを抽出し、PCRによりPROCLA000092.3遺伝子の全長配列の増幅を行った。その結果、ピンク色ザリガニのゲノムDNAを鋳型としたPCR産物は、青色ザリガニのゲノムDNAを鋳型にしたものに比べ、バンドのサイズが短い、もしくは増幅されないという結果が得られた。理論研究では昨年に引き続き、「議論」をベースとした科学教育の在り方について考察を行い、単元開発の視点を考察することにしていた。ただ、コロナ禍の影響もあり、「議論」に関する科学教育の研究については、教室内でのディスカッションに関する実践の観察や聞き取り調査の実現が困難であり、主には文献研究を進めることとなった。本研究の教材である生物を対象にした科学教育の実現に向けてどのようなことが課題となるのかを含め、単元開発の視点を示すことに注力した。
薄層クロマトグラフィーやHPLCによる分離実験により、見た目のアメリカザリガニの体色のみならず、その要因となる色素を観察できる実験教材の確立を目指す。また、色素結合タンパク質(クラスタシアニンサブユニット)に該当する遺伝子に着目したPCRにより観察された現象が、F1世代、F2世代の青色、ピンク色個体群でも同様の結果が得られるかを確認する。そして、得られた結果から高校生物での遺伝の単元における実験教材として、アメリカザリガニの体色(青とピンク色)に着目した色の違いに関する遺伝マーカーの作成を目指す。そして、これら体色の違いの要因を色素のみならず、それに関わるタンパク質レベルでの違いを確認し、動物色素に着目した新たな遺伝子・タンパク質教材の開発に取り組む。さらに、遺伝的に固定された様々な色を呈するアメリカザリガニの体色の要因を探究していく。理論的研究では引きつづき、以下の2点を進めていきたいと考えている。一つ目はこれまで開発してきた教材を用いた単元構成の総括である。昨年度までに本研究に基づく授業実践を行う事ができたため、その実際や課題を踏まえて、本教材を通じた科学、特に環境教育の単元構成の在り方についてまとめたいと考えている。本研究で提案した単元が現在の新学習指導要領においてどのような意義を有するのかはまだ検討できていないため、その点も明らかにしたい。二つ目は前述したようにコロナ禍において観察や調査が困難であった「議論」を中心としたカリキュラム、教育方法の考察である。「議論」を適切にカリキュラムに取り入れた実践例を収集し、米国における科学の探究学習との比較を行いながら今後の授業と教材研究に役立てたいと考えている。現在、国内の実践事例を調査するための計画を策定中である。
コロナ禍による影響で教材開発、授業実践研究が当初の予定通り進まなかったため、予定の予算執行ができず、繰越額が生じた。次年度は、遺伝子・タンパク質教材開発としての基礎的実験を行うための試薬や、授業実践研究の際の授業や実験消耗品の購入に使用する。また、研究を通じて得られた成果について学会や論文雑誌等を通じて発表する際の経費、調査研究における出張費として使用する予定である。
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Open Access Government
巻: June ページ: 262-263
巻: January ページ: 218-219