特殊詐欺の既遂被害者・未遂被害者を対象として、具体的な欺罔文言や被害者の行動と認識を、被害者自身の語りとして収集し分析することで、被害実態の解明と被害予防方策の策定を企図した。 研究期間中に新型コロナウィルス感染症が全国的に蔓延したため、調査対象である被害者には高齢者層の割合が高いこともあり、調査協力が得られない状況が続いた。例外的に実施完了した調査対象者の語りからは、自らとは異なる社会背景・属性の知り合いからの助言により、被害知覚や被害防止動機づけがもたらされるということが示唆された。この知見が一般化できるとすれば、新奇の欺罔手口に気づきにくい被害者にとっては、「私とは違う世界を知っている人」と認識される人物の助言が最も効果的であるということになる。古典的研究で示されるweak tiesの効果が、特殊詐欺の被害抑止の貢献という性格をも持つ可能性が考えられる。しかし、どの程度の間柄が最も効果的であるのかや、予防効果の多寡を左右する要因については十分な検討を進めることができなかった。 補助金の裏付けのある研究期間は終了したものの、十分なデータに基づいた検討が進められていないことから、調査協力が得られにくい被害者層ではなく、水際阻止に成功した金融機関や店舗の従業員や地域住民の被害抑止行動や文言を収集・整理することを継続しており、被害者と阻止者の間柄や各々の属性、具体的な介入文言や行動を精査することによって、被害抑止に資する要因の整理を進めていくこととした。
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