研究実績の概要 |
本研究は、環境への適応を人々がいかに維持するかを検討するものである。ここで言う環境への適応には、様々な脅威(e.g., 感染症)への対策行動(e.g., 清潔保持)が含まれるが、こうした行動の継続は時に容易でなくなる。それは、こうした行動にコストが伴い、そしてその成果が見えにくい(e.g., 手を高頻度で洗うのは面倒で、健康が無事に維持されている間はそのことに気づきにくい)ためである。本研究は、ひとつのモデルケースとして、火災という脅威とそれへの対策行動の関係を分析する研究を進めている。公開されている火災統計の時系列データを状態空間モデルで分析した結果、消防団(i.e., コミュニティによる火災対策)への参加人数と火災被害(e.g., 全焼棟数)が連動することが示された。より具体的には、①消防団員が多いと後に火災被害が減る(逆に、団員が少ないと後に被害が増える)連動と、②火災被害が大きいと後に団員が増える(逆に火災被害が小さいと後に団員が減る)連動が確認された。これは、消防団が火災被害を抑える有効な対策であることを示唆しつつ、同時に、その有効な対策が被害の減少とともに「風化」していくことをも示唆している。さらに、2021年度の分析では、こうした「風化」は常備消防が充実している(e.g., 消防職員が多い)エリアで特に見られやすいことも確認された。これは、常備消防によって提供される安心が、「風化」を促進する可能性を示唆している。また、消防団が火災被害を抑えるメカニズムとして、直接的な消火活動への貢献だけでなく、団員と身近な人々(e.g., 家族)による火災対策行動(e.g., 火の始末)の日常的・継続的な実践を、消防団員の存在が促進している可能性を考えた。消防団員を身近に持つ人々を対象にしたインターネット調査の結果、そうした日常的な対策を消防団が促進するパタンが確認された。
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