研究実績の概要 |
本研究では、関係構築・維持場面において適応的となる行動方略を機会コストの大きさごとに特定するモデルの構築と、理論モデルの実証的検討、及び行動方略を支える至近的な心理基盤を特定することを目的とする。2018年度は、理論モデルで検討対象とすべき行動方略の種類を絞り込むことを目的とした調査の準備を行った。新規の関係構築場面における行動及び能力と機会コストの関係については、低機会コスト社会に身を置く人々に比べ、高機会コスト社会に身を置く人々の方が、他者の信頼性を示す情報に敏感に反応して信頼性評価を修正できる(小杉・山岸, 1997)、新規の関係形成を促進する装置として機能する一般的信頼性を高レベルで備える(Yamagishi & Yamagishi, 1994)など、すみやかな関係形成を可能とする行動方略や能力を備えることが示されているが、関係形成後の関係維持方略と機会コストの関係は未だ明らかにされていない。信頼の解放理論に基づけば、社会的不確実性を長期的関係の形成によって解決することが適応的(少なくともそれによって適応度の低下を招かない)な低機会コスト環境において、関係維持方略が獲得されることが示唆されるが、「(高機会コスト環境に身を置く人々にとって重要となる)潜在的に大きな利益をもたらす可能性のある、関係外部の相手」との相互作用が最も大きな利益をもたらすのは関係開始直後の浅い関係においてではなく、相互に依存度を高め合った相互信頼関係においてである。そのため、関係維持方略を獲得することの重要性が、低機会コスト社会においてより高機会コスト環境において相対的に小さいかどうかは自明ではない。そこで2018年度は関係維持場面における行動方略と機会コストの関係を探索的に検討し、適応的な行動方略の候補を絞り込むため、場面想定法を用いた質問紙実調査の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関係構築・維持場面における適応的な行動方略を機会コストの大きさごとに特定するモデルの構築にあたり、検討対象とすべき行動方略の種類を絞り込むことを目的とした質問紙調査の準備を行った。具体的には、機会コストの大きな(小さな)環境に身を置く人々が獲得している関係形成後の関係維持方略について検討することを目的とした、場面想定法の質問紙調査の準備を行った。本調査が主に測定の焦点とするのは、他者と関係を形成し、ある程度の相互信頼関係(互いに、相手が左右できる自分の利得が大きい高依存度状態)を構築後にその相手が非協力的に振る舞った場合に人々がどのような行動をとるかである。そこで、「ある人とある程度の期間つきあいを続け、相互に依存度の高い状態を構築してきた」状態で、その人が非協力的に振る舞ったというシナリオを複数考案した後選定を行い、2種類のシナリオを作成した。そして、そのシナリオ場面での相手に対する協力行動及び信頼行動の他、その場面において取り得る行動の候補として「放置する」「相手の行動の改善を試みる」「関係を切る」等27種類の行動を提示し、その場面でそれらの行動をとるとどの程度思うかを測定する質問項目群を作成した。同時に、回答者が日常場面で採用している関係形成・維持方略を測定する質問項目群、及び回答者が普段身を置いている機会コストを測定する質問項目群も作成した。機会コストの指標としては、一般的信頼尺度(Yamagishi & Yamagishi, 1994)、関係流動性尺度(Yuki, Schug, Horikawa, Takemura, Sato, Yokota, & Kamaya, 2007)、所属コミュニティ数、SNSの友人数を用いた。また、様々な機会コスト環境に身を置く人々からの回答を収集するため、国内の複数の地域、複数の大学で調査を実施する準備と打ち合わせを行った。
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