研究課題/領域番号 |
18K03011
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
真島 理恵 北海道医療大学, 心理科学部, 講師 (30509162)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 信頼 / 協力 / 機会コスト / 進化 / 社会差 |
研究実績の概要 |
本研究では、関係構築・維持場面において適応的となる行動方略を機会コストの大きさごとに特定するモデルの構築と、理論モデルの実証的検討、及び行動方略を支える心理基盤の特定を目的とする。2019年度は、理論モデルで検討対象とすべき行動方略の種類を絞り込むことを目的とした調査を実施した。新規の関係構築場面における行動及び能力と機会コストの関係については、低機会コスト社会に身を置く人々に比べ、高機会コスト社会に身を置く人々の方が、他者の信頼性を示す情報に敏感に反応して信頼性評価を修正できる(小杉・山岸, 1997)、新規の関係形成を促進する装置として機能する一般的信頼性を高レベルで備える(Yamagishi & Yamagishi, 1994)など、すみやかな関係形成を可能とする行動方略や能力を備えることが示されているが、関係形成後の関係維持方略と機会コストの関係は未だ明らかにされていない。信頼の解放理論に基づけば、社会的不確実性を長期的関係の形成によって解決することが適応的な低機会コスト環境において、関係維持方略が獲得されることが示唆されるが、「(高機会コスト環境に身を置く人々にとって重要となる)潜在的に大きな利益をもたらす可能性のある、関係外部の相手」との相互作用が最も大きな利益をもたらすのは関係開始直後の浅い関係よりむしろ、深化した相互信頼関係においてである。そのため、関係維持方略を獲得することの重要性が、低機会コスト社会より高機会コスト環境において相対的に小さいかどうかは自明ではない。そこで本研究では場面想定法を用いた質問紙調査を実施し、関係維持場面における行動方略と機会コストの関係について検討を行い、低機会コスト環境に身を置く人々が獲得している関係維持方略が、高機会コスト環境において必要とされる、見極め能力を含む対人スキルとは別の形で獲得されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関係構築・維持場面における適応的な行動方略を機会コストの大きさごとに特定するモデルの構築にあたり、機会コストの大きな(小さな)環境に身を置く人々が獲得している関係維持方略について検討することを目的とした、場面想定法の質問紙調査を実施し、データ分析を実施した。既存の長期的な二者関係が崩壊の危機に面した場合に人々がどのような行動をとるかを測定するため、「既に長期的な二者関係にある相手が近頃、非協力的に振る舞うようになってきた」場面を記述したシナリオ(「臨時社員」「仕入れ業者」の2種類を用意)を提示し、そこでの自分がとるであろう行動について尋ねた。なお、いずれのシナリオにおいても、長期的な協力関係の形成により、両者にとって互いの価値が高い状態となっている状態であることを記述することで、その関係内部における社会的不確実性が低減されていることを示した。質問紙で測定された、シナリオ場面での、相手に対する行動(31項目)及び、回答者の日常場面における対人行動(21項目))が主要な従属変数であり、また独立変数として、回答者が身を置く環境の機会コストを反映すると考えられる7種類の指標を測定した。分析の結果、高機会コスト環境に身を置く人ほど、「積極的に関係を修復」しようとし、「相手との関係を切ろう」とせず、相手への「不満・愚痴」を言わないと回答するパターンが観察された。さらに、高機会コスト環境に身を置く人ほど、日常的に「関係拡張」を試みることに加え「長期的関係を重視」し、「相手の要求に敏感にこたえようとする」パターンにあることも明らかとなった。すなわち、低機会コスト環境に身を置く人々に比べ、高機会コスト環境に身を置く人々の方が、長期的関係をコストをかけてでも維持しようとする傾向にあることが明らかとなった。これらの結果について2つの国内学会と1つの国際学会で報告し、関連研究者と議論を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに明らかとなった知見に基づき、機会コストと関係維持方略との関係をより詳細に特定する実験室実験・調査を実施する。2019年度までの検討の結果示唆されたのは、機会コストが大きい環境に身を置く人ほど、新規の関係拡張のみならず、既存の長期的関係の維持にも資源を投資するというパターンであった。この結果への解釈として考えられる第一の可能性は、機会コストの小さい環境ではそもそも将来の影によって行動を縛られる程度が大きいため、人々はパートナーの裏切りに対応する方略を備えていない、ということである。もう一つは、低機会コスト環境に身を置く人々が獲得している長期的関係維持方略は、パートナーに直接働きかける対人スキルとは別の形で実装されている可能性である。例えば、伝統的ムラ社会のような低機会コスト社会でパートナーの裏切りが生じた場合、パートナーに直接働きかけるよりも、パートナーに強い影響を持つ人物(ネットワークの中心人物など)を把握し、その人物に働きかけることで間接的にパートナーの行動に影響を与えるほうが、より効果的であるかもしれない。もしそうなら、低機会コスト環境に身を置く人々は、高機会コスト環境に身を置く人々に比べ、集団内の関係性を適切に把握し、使いこなす能力を獲得することによって、結果的により効果的に長期的関係を維持している可能性が考えられる。この可能性について検討するため、集団内の関係性把握、及び関係性を利用してパートナーの行動に影響を与えることにどの程度資源を投資するかを測定するゲームないしは質問紙を開発する。そのうえで、人々が身を置く機会コストとこれらの投資方略との関連を、データを収集して明らかにする。その結果に基づき、どのような機会コストの下で、関係構築・維持場面でどのような行動方略が適応的となるかを特定するモデルの作成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に実施した調査の結果、機会コストと関係維持方略との関係をより詳細に特定することを目的とした実験室実験・調査を実施の実施が必要となったため。追加調査の実施に際しての用紙やプリンタートナーを購入するとともに、実験実施のためのタブレット端末購入が必要となる。
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