研究課題/領域番号 |
18K03021
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
菊谷 まり子 東洋大学, 社会学部, 助教 (60707412)
|
研究分担者 |
池本 真知子 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (90469081)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 感情 / 文化 |
研究実績の概要 |
本研究は文化による感情の定義の違いについて調べるものである。特に、特定の感情を喚起する状況に文化による違いがあるのかに焦点を当てている。アメリカ、イギリス、台湾、韓国、日本、カンボジア、ポーランド、スウェーデン、ベラルーシの9か国を研究対象とする。主軸の研究として、10個の感情(喜び、熱い怒り、冷たい怒り、悲しみ、恐れ、驚き、興奮、リラックス、眠気、満足)を喚起する状況を9か国の人々(各国100人程度)に描写してもらい、特定の状況と特定の感情の関係性を明らかにする。そしてその関係性をもとに感情ごとの類似性(どの感情とどの感情が似ているのか、異なるのか)を数値的に表現し、各国における10感情の関係性をモデルで表す。さらにそれらのモデルを国ごとに比較することによって、文化の影響を強く受ける感情と、複数の文化において認識の一貫している感情を見出し、感情と文化の関係性についての理解を深める。1年目の研究の目標は9か国のうちできるだけ多くの国から記述を集め、翻訳をすることであった。現時点で台湾、日本、カンボジア、スウェーデン、ベラルーシのデータは集まり、翻訳まで終了した。韓国はデータ収集中で、アメリカ、イギリス、ポーランドに関しては研究協力者と準備を進めているところである。よって進捗はおおむね順調である。また、本研究のサブ・プロジェクトとして、日本と韓国における感情語の定義の違いについての研究と、日本・アメリカ・インドにおける「道徳違反に関わる感情と怒りの関係」についての研究、日本とアメリカにおける感情的な声の認知に関する研究が派生した。これらについては国際誌に論文が発表された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究ではアメリカ、イギリス、台湾、韓国、日本、カンボジア、ポーランド、スウェーデン、ベラルーシの9か国のうちできるだけ多くの国において、その国の出身者であり在住者である比較的若い人たちに、10個の感情(喜び、熱い怒り、冷たい怒り、悲しみ、恐れ、驚き、興奮、リラックス、眠気、満足)を喚起する状況を書き出してもらうという作業を行った。現時点で台湾、日本、カンボジア、スウェーデン、ベラルーシのデータは集まり、翻訳まで終了した。韓国はデータ収集中で、アメリカ、イギリス、ポーランドに関しては研究協力者と準備を進めている。 今後はこのデータを分析していくが、1年目の多くはその分析方法についての文献研究にも費やされた。データ分析は、まず各国で集められた感情に関する状況の記述を似ているもの同士でグルーピングし(例:誰かの死、物をもらう、など)各感情にどの文脈グループが多く集まるのかを数える作業から始まる。同じような内容のことであっても個人によって使用する単語や文章構成が異なり、表現が多様なため、グルーピングの基準を明確にする必要がある。グルーピングの基準についての客観的な妥当性を保証するため、Computational Linguisticsの分野の文献を調査するとともに、国際学会でも資料収集をした。 また、本研究を通じて海外の共同研究者とやり取りをする中で、いくつか付属のプロジェクトが派生した。韓国と日本における感情語の認識についての研究や、「怒り」の感情と「反道徳性」に関する感情の関係性において文化の影響があるのかどうかを調べた研究(日本、インド、アメリカを比較)、日本とアメリカにおいて感情を表す声がどのように認識されるのかについての研究などが本研究と並行して行われた。これらのプロジェクトはすべて感情と文化の関係に焦点を置いており、関わっている研究者も本研究と同様である。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目の研究では、残りの国でのデータ収集を終え、感情構造の分析を行うことを目標とする。記述文のグルーピングは研究代表者と分担者が手作業で行うため、半年ほどの期間を必要とする。グルーピングが完了したら各感情に集まった文脈グループの数を数え、コレスポンデンス分析にかけて10感情の関係性を2次元モデル上に付す作業を国ごとに行う。最後に国ごとの比較をし、感情とそれを引き起こす状況の関係性が文化によって異なる感情を見つけ出す。ここまでを2年目の課題として進めていく。論文執筆も同時に進め、可能であれば学会発表を年度中に行う。これ以降は文化によって定義の異なった感情に焦点を当てて研究を進めていく。なぜ文化による違いが生まれるのかを言語学、社会学、文化人類学などの視点から考察していく。さらに、その感情概念がどのように構成されているのかについてもいくつかの実験を交えて検証していく。感情の概念がいくつかの関連語の集まりであるとすると、例えば「恐れ」という感情はそれに関係する事象(例:自然災害、武器、失敗)の集まりといえる。そして「恐れ」の定義に文化差があった場合(例えば文化Aでは身体的に与えられる脅威に結び付いたものなのに対し文化Bでは金銭的な不安に結びついたものである)「恐れ」という単語と関係が深いとされる単語も文化によって異なるはずである。3年目以降に行う実験では、文化差の大きい感情とその関連語に対する9か国の人々の反応を様々な認知課題を利用して測定し、それぞれの文化におけるその感情の概念構造を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外での調査に関して、調査に参加した人に支払う謝礼金を予定していたが、それぞれの国の共同研究者が自分たちの学生に調査参加を依頼し、謝礼金の代わりに授業での加点等を使用してくれたため余剰が生じた。余剰分は次年度研究分担者が使用するノートパソコンの購入に充てる。研究分担者のパソコンは2018年度に購入予定であったが、国際学会に参加して旅費がかさんだため見送っていた。
|