研究課題/領域番号 |
18K03022
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
土田 昭司 関西大学, 社会安全学部, 教授 (90197707)
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研究分担者 |
河野 和宏 関西大学, 社会安全学部, 准教授 (60581238)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 被災時行動 / 災害 / パニック / 中華人民共和国 / 社会調査法 / 質問紙調査 / 心理実験 / バーチャルリアリティ |
研究実績の概要 |
自然災害時の住民のパニック行動は、日本やアメリカ合衆国などでは発生したことがないと1950年代から繰り返し指摘されてきている。ところが、中国では、中規模以上の地震発生後に中高層階からの飛び降りなどの住民のパニック行動が発生していると報道されている。本研究は、中国において被災時に住民のパニック行動を発生させる要因を特定することを目的としている。 本年度は、中国において昨年度実施した予備調査結果の分析検討をふまえて本調査を2019年11月12月に実施した。調査対象者は、中国の15大学(南京大学・南京工業大学・南京郵便大学・南京師範大学・淮陰工学院・復旦大学・上海師範大学・浙江農林大学・福州大学・雲南大学・西北民族大学・長安大学・武漢大学・東北大学・東北師範大学)の学生計1,116名(男性480名、女性630名、性別無回答6名)であった。本調査の中国語版質問紙は、土田研究室において研究協力者である南京大学Zhai教授との協議の上作成した。 質問紙は、15の大問によって構成した。それらは、大地震における1)自分の行動予測、2)建物の安全性評価、3)避難経路の安全性評価、4)避難場所の安全性評価、5)公的支援への期待、6)共助への期待、7)自分の行動の予測、8)身近な他者の行動の予測、9)一般的な人の行動の予測、さらに、10)熟慮傾向尺度、11)自己コントロール尺度、12)援助への態度尺度、13)大地震における自分のパニック行動の予測、14)自分が地震に遭う可能性、15)デモクラティック項目、であった。 なお、予備調査の結果は、土田によって2つの国際学会(研究会)において発表(口頭発表・基調講演)した。 次年度に中国と日本において実施する予定のバーチャルリアリティを用いた心理実験の準備を共同研究者である河野と共に進めている。実験のための基本的なバーチャルリアリティソフトを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の計画では、前年度に実施した予備調査の結果を分析考察したうえで、中国の経済発展地域にある大学と経済後進地域にある学生を対象として本調査を行うこととなっていた。当初の計画どおりに中国の経済発展地域と経済後進地域にある15大学の学生を対象として本調査を実施して1,116名から回答を得た。本調査の結果の分析・検討を進めており、国際学会ならびに論文での発表を準備している。 本研究の計画では、中国の大学生と比較分析・検討するために日本の大学生に中国と同様の調査を実施することにしていた。日本での調査を本年度末にweb調査会社に委託して実施する予定でいたところ、新型コロナウイルス流行のため、調査対象者の災害に対するリスク認知に変化が生じたと考えられたことから、中国にて実施済みの本調査との比較が困難であると判断して実施しなかった。 昨年度実施した南京大学の学生を対象とした予備調査結果は、2つの国際学会において発表をした。現在、論文での発表を準備している。 来年度には、中国においてバーチャルリアリティを用いた心理学実験室実験の実施を予定している。バーチャルリアリティのプログラムなど実験の準備を進めており、基本的なプログラムの目処がついている。 以上のように、本研究では、中国での本調査の実施、予備調査結果の分析・検討およびその成果発表、バーチャルリアリティを用いた心理学実験室実験の準備は、計画どおりに進捗している。そこで、現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
中国の大学生を対象としたバーチャルリアリティを用いた心理学実験室実験を南京大学にて実施する予定である。研究協力者である南京大学のZhai教授からは実験室実験への協力の約束を得ている。バーチャルリアリティを用いた心理学実験室実験に必要となる資材は調達済みであり、プログラム等の準備は予定どおりに進んでいる。当初の予定どおりに来年度(令和2年)9月頃に実験を実施したい。ただし、新型コロナウイルスによる中国・日本間の渡航制限の状況、および、南京市における新型コロナウイルス流行の収束状況により、予定どおりに実験を実施することが困難となる可能性がある。仮に実験を実施できない状況となったときに代替手段を講じることは不可能であり、研究実施を延期せざるを得ない。 中国において実施した予備調査ならびに本調査の結果を分析・検討して国際学会大会(令和2年12月開催のThe Society for Risk Analysis大会を予定)での発表、および、研究雑誌(Risk Analysis等) への論文投稿を行う。合わせて、国内学会での大会発表と論文発表も検討する。 さらに、新型コロナウイルス流行により中国の人々の災害時の意識・行動に変化が生じた可能性が考えられることから、今年度実施した本調査と同様の調査を来年度に再度実施し、両調査の結果をもとに新型コロナウイルス流行発生前後の比較分析・検討することも検討している。加えて、新型コロナウイルス流行後の日本の大学生の災害時の意識・行動を中国と同様に調査して両国間の比較分析・検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、本年度実施の本調査は調査対象者である中国ならびに日本の大学生に対して質問紙を配付・回収する方式を予定していた。しかしながら、中国での本調査は調査対象者のスマートフォンを用いて実施することになり、さらに、スマートフォン・アプリでの調査票作成ならびに調査の実施については、研究協力者である南京大学Zhai教授がおこなった。そのため、中国における本調査にかかる質問紙の印刷費、輸送費、質問紙の整理とデータ入力などの謝金を使用しなかった。また、日本の大学生に対しては中国にて使用することがなかった予算を用いて今年度末にweb調査会社に業務委託をすることを計画したが、新型コロナウイルス流行のため、調査対象者の災害に対するリスク認知に変化が生じたと考えられたことから、中国にて実施済みの本調査との比較が困難であると判断して実施しなかった。 上記の理由から本年度使用しなかった予算が生じたため、次年度にこれを活用して、新型コロナウイルス流行後の災害パニック行動調査を、当初から計画している中国でのバーチャルリアリティを用いた心理学実験室実験、ならびに、成果発表とともに行うこととした。
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