視覚的湿り気知覚に伴う嫌悪反応およびその生理的変化の検討を目的とした実験を行った。水分量を段階的に操作した画像刺激を視覚呈示し,それに対する瞳孔径の変化を測定するとともに,濡れ感の強さや種々の嫌悪反応を自己報告で評定させた。その結果,従来の実験結果と同様に,濡れ感の強さは水分量とほぼ線形の関係にあり,画像上の高輝度領域数や特定の空間周波数成分とも一定の関数関係にあることが示された。また嫌悪反応についても画像水分量と二次曲線の関係にあることが示され,従来研究の結果を再現するものとなった。一方で,瞳孔径変化については明らかな傾向性が見いだされなかった。この結果については,画像刺激の輝度統制が十分でなかったためと考察した。さらに,画像刺激の呈示に先んじて感染症に関する脅威情報を与える実験操作を行い,感染症関連知識の賦活が,濡れ感や嫌悪反応に影響するか検討する実験を行った。その結果,感染症関連の知識を賦活した条件において,全般的に嫌悪反応が強まることが示された。一方で,濡れ感については明らかな差異が見られなかった。この結果から,感染症関連の知識は知覚的手がかりの検出過程よりも,嫌悪反応の制御に影響することが明らかとなった。研究期間全体を通じて,視覚的な湿り気知覚の心理物理学的基盤について,同様の結果を4度の実験で再現することができた。しかしながら,生理的反応や個人差に関する検討は今後の課題となった。
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