研究課題
笑いとユーモアは,人類の進化の過程において,集団内での社会的遊びを促進することによって,身体的・認知的・社会的な発達を促し,個体や集団の適応を高めてきたと考えられている。一方,現代社会におけるユーモアの機能・形態は多様化しており,社会的遊びを促し,対人関係の構築に寄与する「親和的ユーモア」,ストレス事象から自尊心を保護し,精神的健康を維持・向上する「自己高揚ユーモア」,遊びの文脈の中で他者を攻撃し,社会的優位性を確立する「攻撃的ユーモア」,自らを貶めることで他者との対立を回避する「自虐的ユーモア」という4つのスタイルが見出されている。本研究では,これらのユーモアスタイルが小中学生の心理社会的適応において果たす役割について,国内で初めて大規模かつ体系的な縦断的検証を行った。3度の縦断調査により、3280名(男子1627名、女子1653名)から完全なデータが得られた。4つのユーモアスタイルは、r=.50~.60程度の時間的安定性を示した。交差遅延モデルによる検証の結果、「親和的ユーモア」や「自己高揚ユーモア」は心理社会的適応(友人関係、家族関係、精神的健康など)を促進する一方、「自虐的ユーモア」は適応を阻害し、とりわけ不登校や自傷行為などの深刻な内在化問題への影響が顕著であることが示唆された。また、「攻撃的ユーモア」はいじめ加害や非行を予測した。一方、4つのユーモアスタイルに影響する要因を検証した結果、親の肯定的養育が「親和的ユーモア」や「自己高揚ユーモア」を促進する一方、否定的養育のうち、過干渉は「自虐的ユーモア」、叱責・体罰は「攻撃的ユーモア」を高めることが示された。こうした結果から、ユーモアスタイルは幼少期の経験によって形成され、児童・青年期の心理社会的適応を左右する重要な要因として機能することが示唆された。以上の研究結果を論文化し、学会誌に投稿中である。
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発達心理学研究
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10.1016/j.braindev.2021.01.003