研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症の児童を対象として、心理実験を用いて善悪判断の方略を解明する実験を行っている。物語を用いて仮想状況を設定し、登場人物の善悪がいかに判断されるかを検討し、登場人物が行った行動の結末が、善意あるいは悪意のどちらに基づいて起こされたのかを検討している。たとえば、結末が同じネガティブなものであっても、善意の文脈を与えるほうが悪意の文脈を与えるよりも、結末が悪いと判断されると考えられる。自閉スペクトラム症児は、明示された意図に基づく人物判断には優れるが、暗示された意図の判断には困難を示すと考えられる(子安, 2009)。たとえば、(お母さんのお手伝いをしようとして)といった情報が与えられた場合における善悪判断では高い正答率を示すのに対し、情報が与えられず推論が必要な場合における善悪判断の正答率は低いと予想する。この結果は、自閉スペクトラム症児は登場人物の善悪を、観察可能な行動に基づいて判断する傾向があることを示す。自閉スペクトラム症児は定型発達児とは異なった方略で他者の善悪を判断していることを示唆し、道徳性の教育に有益な知見を提供できると考える。現在、自閉スペクトラム症を持つ小学生を対象に、横浜市の通級型施設などの協力を得て、研究を進めている。また、高齢者の善悪判断の研究を行い、論文として出版した(Komeda, H*., Eguchi, Y*., Kusumi, T., Kato, Y., Narumoto, J., & Mimura, M (2018). Decision-making based on social conventional rules by elderly people. Frontiers in Psychology, section Cognitive Science, 9(1412). (* equal contributors))。
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