研究課題/領域番号 |
18K03034
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
米田 英嗣 青山学院大学, 教育人間科学部, 准教授 (50711595)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 善悪判断 / 自閉スペクトラム症 / 共感性 / 冷淡・無感情特性 / 認知的共感 / 道徳性 |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症の児童を対象として、心理実験を用いて善悪判断の方略を解明する研究を行った。物語を用いて仮想状況を設定し、登場人物の善悪がいかに判断されるかを検討した。登場人物が行った行動の結末が、善意あるいは悪意のどちらに基づいて起こされたのかを、言語報告に基づいて検討した。結末が同じネガティブなものであっても、結末文の善悪の判断が異なると考えられる。自閉スペクトラム症児は、明示された意図に基づく人物判断には優れるが、暗示された意図の判断には困難を示す (Komeda et al., 2016)。たとえば、(他人のお手伝いをしようとして)といった情報が与えられた場合における善悪判断では高い正答率を示すのに対し、情報が与えられず推論が必要な場合における善悪判断の正答率は低いと予測した。この結果は、自閉スペクトラム症児は登場人物の善悪を、観察可能な行動に基づいて判断する傾向があることを示す。自閉スペクトラム症児は定型発達児とは異なった方略で他者の善悪を判断していることを示唆し、道徳性の教育に有益な知見を提供できると考える。2019年度にデータ取得を終えて、現在、データ解析を進めている。 自閉スペクトラム症を持つ成人の善悪判断を支える認知的共感についての研究を、Frontiers in Psychiatry誌に発表した。自閉スペクトラム症の児童と、冷淡・無感情特性を持つ児童による共感性についての展望論文を心理学評論誌に発表した。また、道徳性についてのシンポジウムを教育心理学会において企画した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自閉スペクトラム症の児童のデータ取得も完了し、自閉スペクトラム症の成人についての論文も発表できた。さらに、道徳性についてのシンポジウムも企画し、「児童から高齢者を対象とした善悪判断の心理メカニズムの解明とその支援」の目的が達成されつつあるので、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
自閉スペクトラム症の児童を対象とした研究を国際誌に投稿する。自閉スペクトラム症の成人についてのfMRIを用いた研究を行う。Komeda et al. (2016)の言語刺激を用いて、心理実験およびfMRI実験に基づき、結末文読解時、善悪判断時における脳活動を計測する。定型発達の成人は、善悪判断を行う際に、心の理論ネットワーク、感情制御に関わる前部帯状回が機能的に結合するのに対して、自閉スペクトラム症の成人は、論理的な推論を行う際の脳機能ネットワーク(Ferstl & von Cramon, 2002)が活動すると予測する。こうした知見を踏まえ、自閉スペクトラム症児の効果的な支援につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスのため、3月に予定していた学会発表と、共同研究打合せのための出張が中止になったため、次年度使用額が生じた。
使用計画としては、前期の間に対面での実験が難しいという理由から、次年度の前期はオンラインでの調査を行う。オンラインでの調査を行うために、ウェブ マーケティング会社にデータ収集を7月に依頼し、次年度使用分を使用するという計画を立てている。
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