研究実績の概要 |
最終年度は、大学生を対象とした道徳教育方法についての検討を行った。道徳教育の効果を検証するために、大学で半年の間、週一回の演習形式の授業を行った。受講生は11名であり、全員が2回発表を行った。1回目は、既存の道徳教育の発表、2回目は新たな道徳教育法に基づく模擬授業であった。全15回の授業のうち、4回は、文部科学省「道徳教育アーカイブ」など従来型の道徳教育を学習した。そこで、物語や映像教材を通じて、相互理解、寛容、公正、公平、社会正義などを主題とした従来型の道徳教育を確認した。その後、5回にわたり、受講生によって、道徳教育の授業紹介が行われた。このように受講生の間で従来型の道徳教育において共通理解を得られた上で、プロジェクションに基づく新たな道徳教育を目指した授業発表が、5回にわたって行われた。 今後の道徳教育においては、道徳的判断能力を育成することも重要になる。たとえば、ある人の立場から見たら善であるが、別の人の立場から見たら悪であるという葛藤状況を含んだ様々な状況における判断を身につけることが考えられる。道徳的葛藤状況の問題はモラルジレンマとして検討されてきているが(荒木, 2017)、同じ行為が文脈に応じて善あるいは悪になる場合や、同じ人物が他者の視点によって善人あるいは悪人になるという状況は、現実場面では少なくないが、実証的な検討はまだあまり行われていない(Komeda et al., 2016)。今後は、多様な人物の視点から描かれた物語やシナリオに没入体験を促し、他者の視点を自己にプロジェクションをすることで道徳的判断力を育成することが考えられる。さらに、多様な文化や社会において、機に応じた道徳的行為を選択できる人物を育成する教育が求められると考える。
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