研究課題/領域番号 |
18K03038
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
出口 拓彦 奈良教育大学, 学校教育講座, 准教授 (90382465)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育心理学 / 規範逸脱行動 / 集団 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究で援用している理論的モデルの妥当性について,質問紙によって測定した実測値とコンピュータ・シミュレーションによる予測値との関連を分析したところ,シミュレーションの設定によっては中程度以上の強さの(正の)関連が示された。このことから,理論的なモデルには一定の妥当性があることが示唆された。 また,ある集団や社会において,「ある行動」に対して個人が持つ態度が,その集団や社会におけるその行動の採用率に及ぼす影響について,コンピュータ・シミュレーションを用いて検討した。そして,個々人が知覚できる範囲に「限界」ないし制限を持たせたモデルである「ローカル条件」の方が,このような制限を持たせない「グローバル条件」に比べて,行動変容が起こりにくい傾向が示された。特に,①周囲の状況にかかわらず「ある行動」を採用しようとする者や,②周囲の状況にかかわらず「ある行動」を採用しようとしない者の割合が低い場合において,この傾向は顕著となった。しかし,社会的感受性(「ある行動」の採用のしやすさを表す)が正規分布するときは,「ローカル条件」の方が行動変容は生じやすくなる可能性があることも示された(学会誌「シミュレーション&ゲーミング」上で発表予定)。この他,2次元マトリクスを用いたシミュレーションと1次元マトリクスを用いたものの出力結果についての比較検討なども行った。 さらに,規範逸脱行動の抑制に関する研究も行った。具体的には,授業における「児童の私語」への教員による対応の効果について,「教員による私語」に対して教員自身が持つ態度に着目して検討した。その結果,教員が自らの私語に対して否定的な態度を持っていなければ,何らかの指導(対応)を児童に行っても,十分な効果を発揮することは難しい可能性が示唆された。 これらの結果は,学会や査読付きの学会誌,紀要において発表済みないし印刷中(発表予定)である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように,本研究で援用している理論的モデルの妥当性について,質問紙によって測定した「実測値」と,コンピュータ・シミュレーションによる「予測値」との相関係数を算出することによって分析したところ,モデルには一定の妥当性があることが示唆された。また,質問紙調査によって得られたデータのみを使用した分析においても,理論的なモデルと大きく矛盾した結果は,これまでのところ得られていない。このことから,研究全体の進捗に否定的な影響を及ぼすような事態は生じていないと考えられる。したがって,現在のところ本研究はおおむね順調に進展していると思われる。 ただし,2019年度末あたりから新型コロナウイルスの問題が発生しており,感染状況によっては,今後,学校などにおける質問紙調査の実施が困難となる可能性があると推測される。このため,WEB調査等,質問紙調査の代わりとなる測定方法について検討していくことが重要となると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究のベースとなっている理論的なモデルについては,前述のように一定の妥当性が示唆されていることから,研究計画を大幅に見直す必要はないと考えられる。 また,これまでは,質問紙については,主として学習者を対象として,教育場面における規範逸脱行動について検討してきた。しかし,近年は,「教員間いじめ」のような教員による行動についても研究の対象に含めることで,本研究で得られた知見を,より多様な場面・問題ないし対象者に適用することの可能性や問題点などについても考察できるようにしている。今後も,より多様な教育場面における規範逸脱行動について焦点を当てることによって,このような,いわゆる「知見の一般化可能性」に関する検証を進めていければと考えている。 なお,「現在までの進捗状況」にも記載したように,新型コロナウイルスの問題が発生しており,感染状況によっては,今後,学校における質問紙調査の実施が困難となる可能性が考えられる。このため,2020年度以降については,WEB調査等,質問紙調査の代わりとなる測定方法について,検討していくことが重要となると思われる。
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