最終年度は,中学生を対象とした質問紙調査で得られた「社会的感受性」と「座席位置(物理的な位置関係)」「ある行動の頻度」に関するデータを基に,コンピュータ上に生徒間の位置関係を再現した教室を作成した。そして,「限界質量モデル」を基にしたシミュレーションを実施し,「シミュレーションの出力」と「質問紙による実測値」を比較することで,シミュレーションのモデルは現実のプロセスを説明しうるものであることを示した。 さらに,これまでの研究成果を基に,オンライン授業による「規範逸脱行動を考える指導案」を作成した。この指導案は大学生を対象としたものであり,90分×3回で構成されている。その効果について実証的に検討したところ,「自分も周囲も(規範を)遵守している状況」への満足度が増加する傾向が示された。また,授業後には「逸脱」という行動基準を持った生徒の割合が減ったものの,「同調」の割合は増加した傾向も見られた。このことから,当該授業は「規範を遵守する方向」に生徒の態度を変容させうる一方,その効果には限界がある可能性も示唆された。 研究期間全体を通した研究成果に関しては,最終年度までの研究から,教育場面における規範逸脱行動拡散を考察するための理論的な枠組み(方法論的な側面を含む)の基盤が構築された。これに加えて,「規範」について考えるための授業案(対面・非対面式双方)を作成し,その効果に対して実証的に検証した研究によって,教育実践的な知見も得られた。さらに,成人による問題行動についても検討した。具体的には,「教員間いじめ」の被経験頻度や「『いじめ』を目撃した際の報告頻度」などの実態等について,小中高等学校教員を対象とした3年間に渡るWEB調査によって測定・分析した。 これらの研究成果は査読付きの学術雑誌等で発表した。このように,理論的・実践的側面双方における研究成果が得られた。
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