研究実績の概要 |
今年度は「一対多」と「一対一」の他者理解の異同に着目した調査研究のデータ(保育者養成校の女子短期大学生73名)について解析を行い、その結果について関連研究を参照しながら考察を試みた。そのうえで今後の研究展開の方向性について検討した。 ここで着目したのは、Witsによって算出可能なαである。この値は1に近づくほど、「一対多」状況での他者理解が正確だと解釈できる(cf.中島, 2021; 植阪他,2017; 植阪・中川, 2012)。この調査では「一対一」状況での他者理解の正確さの指標と解釈可能なRMET(野村他, 2016)の得点と、ENDCOREs(藤本・大坊, 2007)の解読力の得点、そしてWitsのαの間に正の相関があることを予測していたものの、αと他の2つの得点の間に有意な関連は認められなかった。一方、ENDCOREsの関係調整の得点とαに正の関連があることが示された。これらの結果は予測と異なり、また理論的考察も難しいことから、現時点ではαを「一対多」状況での他者理解の正確さの指標として使用可能だと明確に主張することはできない。しかし、学校教育実践での有用性が指摘されているαの特徴把握に貢献した点で、この調査研究には意義がある。以上の内容について日本心理学会第86回大会で発表し、参加者とさらなる議論を行った。 研究期間全体の主たる成果もまた同様である。これまで、学校教育実践におけるαの有用性は指摘されていたものの(e.g., 上西他, 2017; 植阪他,2017)、αの特徴を把握するには基礎的知見が足りない状況にあった。この解決に資するために、保育者養成校を対象とした調査研究を継続し、その成果を定期的に報告してきた(e.g.,中島, 2021a,2021b; 2022)。当初の研究計画とは異なる展開となったとはいえ、この点に本研究の意義があると考えている。
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