本研究では,「社会性と情動の学習」(SEL=social and emotional learning)の枠組みにもとづいて,教育的援助ニーズを有する高校生を対象にした「高校生のための社会性と情動の学習」(Social and Emotional Learning of 8 Abilities for Career Development,以後SEL-8Career)プログラムを開発し,社会的自立に向けた社会的能力向上の効果を検討した。具体的には次の3点を実施した。 (a)SEL-8Careerプログラム開発:米国の多数のSELプログラムから演繹的に抽出した8つの社会的能力の構成にしたがって,SEL-8Careerプログラムを作成し,書籍として出版した。内容は,1回50分相当の授業の25回分の指導案と教材及び資料である。なお,教材と資料はホーム・ページで公開し,広く実践の用に供することができるようにした。 (b)SEL-8Careerプログラムの実施:公立定時制高校1校の全学年で実施し,実践事例を通してその効果を検証した。また,公立高校普通科総合学科でも実施し,統制校との比較でその効果を検証した。より明確な効果を得るための継続した実践方策についても考察できた。 (c)「キャリア発達社会的能力尺度」作成と効果測定:研究対象者の発達段階相応の社会的能力を測定する自己評定式の「キャリア発達社会的能力尺度」を作成し,妥当性と信頼性を確認した。これを用いて,上記(b)のSEL-8Careerプログラムの実践の効果を測定した。 なお,当初予定していた就労の機会を求めている30歳程度未満の若者を対象にしたプログラム実践は,新型コロナ感染症のために連携先の就労支援企業での参加者募集が進まず,少人数での試行にとどまった。
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