研究課題/領域番号 |
18K03043
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
丸野 俊一 九州大学, 人間環境学研究院, その他 (30101009)
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研究分担者 |
野村 亮太 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (70546415)
小田部 貴子 九州産業大学, 基礎教育センター, 講師 (80567389)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 越境的マインドセット / 異分野・異文化交流 / 社会文化的営みの変容 / 差異敏感性 / 価値敏感性 / 既成枠組みからの脱却 / 既成枠組みへの拘り |
研究実績の概要 |
越境的説明力の診断とその改善プロセスに関する基本的な研究を展開していく中で、異分野の人々やコミュニティとの相互交流が必要なとの文脈や状況や課題に遭遇しても、旧来の社会文化的な営みや思考スタイルが当たり前になり過ぎて、「越境の存在」に、そもそも気づかないことがある。ある人は、状況に内包されている意味や価値に敏感に気づくかもしれない。しかし、差異や違和感に気づいたときでも、すべてのひとが、そうした境界を乗り越え新たな協働を模索するわけではない。中には境界を越えて新たな生き方考え方や知を創出する者もいれば、これまでの境界を維持強化しようとする者もいる。こうした行動の差異を説明する心理的構成概念として「越境的マインドセット」を想定し、それをいかに育成がしていくかが重要であることに気づいた。 「越境的マインドセットとは、状況や課題に内包されている意味に敏感に気づき、境界を乗り越えていこうとする心の構え」である。越境的マインドセットには、越境への気づきをもたらす知覚・認識パターン、境界を越えようとする意図の働き、そうしたプランに基づく実際の行為が深く関与している考えられる。さらには、こうした認知・行動上の特性の背景には、「他者との関わりや協働によって新たな学びが生じる」という認識的信念も関与している。それだけに、この越境的マインドセットの特性次第で、異分野の人々のと協同構成過程による新たな知の創出や、新たなコミュニティーとの相互交流による生き方・考え方などの社会文化的な営みの様相やスタイルも大きく異なると推察できる。 本年度の研究実績の中で構想した「越境的マインドセット創り」に向けて、次年度以降は、具体的な教育ロールモデルの構築に取り組んでいくことにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、越境的説明力の診断とその改善プロセスを促進する教育環境デザインの構築を目指していたが、基礎的研究を展開していく中で、「越境的文脈や課題や状況」に遭遇しても全ての人が、既成の思考の枠組みや社会文化的営みを改変し直すというように、積極的に関わり・行動するわけではない。その認識・行為の差異を旨く説明できる心理的構成概念を考えないと、越境的説明力という狭い心理構成概念の範囲の中だけでは、越境的状況・課題に遭遇した人の行動の本質的差異を十分に説明できないということに新たに気づいた。 そこで、その本質的差異を説明できると想定される心理的概念として「越境的マインドセット」を構想し、それをどのようにして育成していくかが重要になる。しかし、本年度においては。越境的マインドセットという新たな概念の創出とその定義づけ(「越境的マインドセットとは、状況や課題に内包されている意味に敏感に気づき、境界を乗り越えていこうとする心の構え」)に留まり、具体的に育成していくための教育ロールモデルの構築・実践モデルの開発までには至っていない。 新たな心理構成概念を創出することで、越境的場面での人々の認知・行動上の差異を充分に説明できる可能性は拓かれたが、具体的な検証は次年度ということになる。新たな構成概念を見出し、当初の研究構想の基底にある考え方の不十分さを見直しできたことは、(1)当初の計画以上に進展していると自己評価したいところである。だが「越境的マインドセット創り」に向けての具体的計画・検証は今後の課題であるために、総合的に判断し、(2)おおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の研究推敲過程で新たに見出した「越境的マインドセット創り」を、学内外での諸活動を通して、どのような視点や関わり方から育成していくかについて、幅広い観点から吟味検討し、その育成のための教育ロールモデルの開発・構築を図っていく。さらには「越境的マインドセント」の差異によって、当初計画していた「越境的説明力」のレベルや、あるいは「越境的説明場面」への関わりの様相や、その過程でのリフレクションのレベルや広がりなどがどのように異なるかを解明していきたい。
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