研究実績の概要 |
本研究は,0歳から3歳の定型発達の子どもと就学前の知的発達症をもつ子どもの前言語期からの縦断的資料を集積し,表出語彙獲得過程に見られる非定型性について検討した。特に知的発達症をもつ事例の表出語彙獲得の速度および語彙カテゴリーの広がりに見られる非定型性に関して感覚運動的発達や家庭での認知・遊びの発達との関連性を明らかにした。 最終年度は以下の3点を検討した。言語獲得と関連があり,発達障害をもつ事例では出現や使用に非定型性が見られる指さし行動について,知的発達症をもつ事例の縦断的資料を基に,本研究で用いた家庭での認知・遊びの発達に関する質問紙結果から抽出されている5因子 (小山,2020) との関連で指さし行動出現の認知的基盤を検討した。その結果,養育者の内的状態や感情語の理解といった「他者理解・好奇心」,「人の行為・経験の表象化とその計画性」, 「物での構成遊び」が指さしの出現と関連があることが示唆された。 次に知的発達症をもつ事例の表出語彙獲得と統語発達における非定型性を明らかにするため,これまで集積してきた定型発達の子どもの資料から,「日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙: 語と文法」の動作語 (動詞),時間,位置・場所を示す語の獲得に着目し,家庭での認知・遊びの発達との関連性を検討した。その結果,定型発達では,時間,位置・場所を示す語の獲得は,動作語の獲得速度と関連があり,特に時間,位置・場所を示す語の獲得と家庭での認知・遊びにおける「人の行為の表象化」や「物での構成遊び」との関連性が示唆された。本研究の結果は知的発達症をもつ事例の表出語彙や統語発達への支援に示唆を与えるものであるといえる。 さらに,発達障害をもつ事例への言語発達支援のために,表出語彙獲得過程における非定型性と個人差について,英国を中心に収集した英語圏での資料を基に文献的考察を行った。
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