• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2018 年度 実施状況報告書

多文化社会を創造的に生き抜くためのリーダーシップ養成:「異文化跳躍力」の提案

研究課題

研究課題/領域番号 18K03060
研究機関東京外国語大学

研究代表者

田島 充士  東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30515630)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード異文化跳躍力 / リーダーシップ / 対話 / 省察 / 異文化理解 / 分かったつもり
研究実績の概要

本年度は、本科研申請時に提案した異文化跳躍力(個々の成員が抱く異質なアイディアを元に,独自の行動規範を対話的に構築するリーダーの省察力)に関する理論的検討を進めてきた。申請者がこれまで研究を進めてきたヴィゴツキー・バフチン理論の関連する議論を精査し、特に「対話」概念を中心とした理論研究を進めてきた。また、複数の文化的背景を持つ人々が同じ地域で活動を行ってきたヨーロッパにおける習俗(特にカーニバルに関わる道化文化)に関する知見が、バフチンのダイアローグ論と深く関連し得ることが分かった。新たに判明したこれらの研究領域に関する文献学的な研究を進めると共に、現地におけるフィールドワークも実施した。これらの研究成果は、複数の学術図書・学術論文および学会発表・現場教員向けの招待講演などにおいてその成果発表を行ってきた。
また実践面においては、協力研究関係にある専門家との研究連携を深め、そこでの論議を踏まえたテーマによる講演会を、研究代表者が勤める東京外国語大学において科研に関わるテーマでの講演会を実施した。小学校現場の教育研究者である藤倉憲一氏(新授業デザイン研究会代表)には、『学習者の主体性を促進する教員の権威と権力:学びを深めるリーダーシップ』(2018年12月14日実施)、民間企業の人材研究者である武元康明氏(株式会社・半蔵門パートナーズ社長)には、『あなたにとって一番大切なものは何ですか:日本最強ヘッドハンターが語る,実社会が希求するリーダーの実像』(2019年1月11日実施)のタイトルで実施した。来場者はそれぞれ,およそ200名だった。
藤倉憲一氏が代表を務める、小学校教諭が参加する新授業デザイン研究会との連携においては、小学校現場において異文化跳躍力を育成し得る教育方法のあり方について研究交流(具体的な授業案の発表およびその改善に関する議論を含む)を進めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

異文化跳躍力に関する理論研究は、当初の予想を超える進度で進んでおり、またその成果発表(学術論文・学術図書の出版を含む)についても順調に行えている。まずL.S. ヴィゴツキーの発達理論とプラトンのイデア論を、E.A.ハヴロックによる著名なメディア論を媒介として関連づけて検討した学術論文では、異文化跳躍力に関わる自己意識の成立が書きことば教育と深い繋がりがあることを指摘し,その育成のあり方について示唆を行うことができた。さらにM.M.バフチンのダイアローグ理論の精査を進め,異文化跳躍力に関わるコミュニケーションの性質を整理した概念モデルを提唱した。この研究成果は、複数の学術雑誌への論文において発表を行った。さらに研究計画を提出した時点では想定していなかった、ヨーロッパにおける民俗学的な研究の必要性を発見し、現地におけるフィールドワークも含む研究の蓄積を行えたことも想定以上の成果と考えている。
民間企業や小学校現場における人材開発研究の専門家との研究連携がスムーズに進み、異文化跳躍力を養成し得る教育実践の具体的なイメージを描くことができた点も大きな成果といえる。著名なヘッドハンターでもある武元康明氏との研究協議を通し、自集団における常識的な言語実践に対する言語認識を、他集団の視点から再検討し直すことを示す、バフチンの援用した「異化」の概念が、実践的に重要な重みを持つことが分かった。これらの概念は、学術界においては古くから存在したものであるが、研究代表者の理論研究を通じ、実業界における実践的価値を再発見できた点は意義深いと考えている。また大阪市の小学校現場における実践研究を長年にわたりリードしてきた藤倉憲一氏との協議を通じ、上記の概念を含む理論研究が持つ実践的価値を再検討し、また学校現場における実践像を具体的に描くことができた点も、想定以上の成果であると考えている。

今後の研究の推進方策

2019年度においては、当初の研究計画通り、2018年度の研究成果をもとに理論研究・実践研究をさらに深化させる予定である。
理論研究としては、バフチン・ヴィゴツキー理論を発展的に解釈し、異文化跳躍力に関する言語学的・心理学的分析を深めていく。また2018年度からスタートさせたカーニバルに関するフィールドワーク調査の成果を、これらの研究と接続させていく。さらに社会心理学領域におけるリーダーシップ研究の蓄積との接続を進め、現代の学校教育における様々な実践現場に適用可能な、強靱な人材育成モデルの構築を目指す。
実践研究としては、これまでの研究成果を基に、教育方法の開発につとめる。具体的には、小学校現場における実践研究者との研究連携を通じ、対話的な学びに関する教育方法の開発に参加する。さらにこれらの研究成果をもとに、大学における教育方法・教育評価法についても検討を行い、パイロットスタディを開始する。
以上の理論研究・実践研究をもとに、本研究が設定した異文化跳躍力の要請実現に向けた教育のありかたについて提言を行うための成果発表を行う。

次年度使用額が生じた理由

本年度はほぼ予定していた金額を使用したが,研究を行う進展を鑑み,調査に使用する機器・図書の購入などを一部,次年度に実施することにした。次年度は,本年度を中心に実施した図書を使用した理論研究に加え,教育実践に関する実証的な調査も実施することから,これらの残金も有効に使用できると考えている。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (4件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] 仲間を創る「会話」とグローバルにつながる「対話」:バフチンの対話理論2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 雑誌名

      初等教育資料

      巻: 970 ページ: 74-77

  • [雑誌論文] 話しことば/書きことばの関係を描くメディア論からみた 認知発達: プラトンのイデア論とヴィゴツキーの概念的思考論2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 雑誌名

      ヴィゴツキー学

      巻: 別巻5 ページ: 63-75

  • [雑誌論文] ヴィゴツキー・内言論とグレヴィチ『俳優の創造活動』との関係について2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士・鎌田紗矢香
    • 雑誌名

      ヴィゴツキー学

      巻: 別巻5 ページ: 163-165

  • [雑誌論文] 教育実践を理解するためのバフチン・ダイアローグ論:豊かな異文化交流の実現(フォーラム・講演記録)2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士・古屋憲章
    • 雑誌名

      言語文化教育研究

      巻: 16 ページ: 260-278

  • [学会発表] コメンテーター2019

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 学会等名
      講演会『あなたにとって一番大切なものは何ですか(講演者:武元康明)』(主催:科学研究費補助金,共催:東京外国語大学総合文化研究所・グローバルキャリアセンター)
  • [学会発表] 現代の心理学研究におけるバフチン・ダイアローグ論の意義:異文化間交流(越境)を志向して2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 学会等名
      乳幼児発達研究会:文化比較・行動比較分科会
    • 招待講演
  • [学会発表] バフチン・ダイアローグ論と学校現場:異文化跳躍力を志向して2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 学会等名
      新授業デザイン研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] 指定討論 自主シンポジウム『学校と地域の協働は何をもたらすのか?:教育心理学からみた地域と協働する学校の取り組みと成果』(企画:大久保智生)2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 学会等名
      日本教育心理学会第60回総会
  • [学会発表] ヴィゴツキー理論との出会い:「分かったつもり」を視座として ヴィゴツキー学協会20周年記念行事『鼎談 ヴィゴツキー、いままでとこれから』2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 学会等名
      ヴィゴツキー学第20回大会
  • [学会発表] コメンテーター2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 学会等名
      講演会『学習者の主体性を促進する教員の権威と権力(講演者:藤倉憲一)』(主催:科学研究費補助金,共催:東京外国語大学総合文化研究所・グローバルキャリアセンター)
  • [図書] Inculcating meta-positions that enhance understanding in conflictive worlds: A study based on Bakhtin’s ideas about dialogic estrangement. Puchalska-Wasyl, M.M., Oles, P.K., & Hermans, H.J.M. (Eds.) Dialogical self: Inspirations, considerations, and research. pp.95-1122018

    • 著者名/発表者名
      Atsushi Tajima
    • 総ページ数
      246
    • 出版者
      The Learned Society of the John Paul II Catholic University of Lublin
    • ISBN
      978-83-7306-813-1
  • [図書] 一般項目:「科学的概念(p.45)」「権威的な言葉/内的説得力のある言葉(pp.91-92))」「社会的言語/ことばのジャンル(p.146)」「生活的概念(p.174)」「他者-バフチンにおける-(pp.198-199)」「特権化(p.224)」 能智正博・香川秀太・川島大輔・サトウタツヤ・柴山真琴・鈴木聡志・藤江靖彦(編)『質的心理学辞典』2018

    • 著者名/発表者名
      田島充士
    • 総ページ数
      419
    • 出版者
      新曜社
    • ISBN
      4-7885-1601-4

URL: 

公開日: 2019-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi