食物について学ぶことは,健康と長寿のために全ての動物にとって重要な課題である。特に多数の選択肢から食物を選ばなければならないヒトを含む雑食動物にとっては,これはより困難で重要な課題となる。しかしながら,ヒトはこの問題に自分一人で孤独に対処しなくてもよい。身近な信頼できる他者と食卓を囲み,彼らの経験と知識を借りることで,何が美味しくて,体に良いのかを学ぶことができる。他者の食行動や証言の観察を通して食物について学ぶことを,食物の社会的学習と言う。食物の社会的学習は,効率的かつ安全に食物の美味しさや健康度を知ることができる重要な学習手段である。最近の研究は,発達早期から子どもが,食物について社会的に学習することを示しつつある。しかしながら,子どもが他者から与えられる食物に関する情報の全てを等しく扱い,誰からも同様に学ぶのかは十分に整理されていない。 そこでは,2022年度は,申請者がこの研究費を用いて実施したこれまでの実験成果も含めて,幼児期における食物の社会的学習における先行研究をレビューし,論文にまとめて発表した。その結果,幼児の食物の社会的学習において,情報の種類による選択性と,情報提供者による選択性の,2つの選択性が見られることを明らかにした。次に,これらの2つの選択性を生じさせる1つの動機について議論した。さらに,これらの2つの選択性が,幼児の食行動や嗜好や健康上の問題に及ぼす影響について考察した。最後に,食物の社会的学習のメカニズムをさらに解明するための今後の研究の方向性について提案した。
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