研究課題/領域番号 |
18K03079
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
大石 和男 立教大学, コミュニティ福祉学部, 教授 (60168854)
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研究分担者 |
遠藤 伸太郎 中央大学, 理工学部, 共同研究員 (20750409)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 感覚処理感受性 / Highly Sensitive Person / 抑うつ傾向 / 自殺予防 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,(1)従来の研究で指摘されてきた,感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity;以下,SPSと略記)と抑うつ傾向との正の関連における機序について,詳細な知見を得ること,および(2)既存の心理尺度に関する問題点が指摘されるSPSの測定方法の再検討といった2点を目的としている。令和元年度は,(1)の目的に沿う2件,および(2)の目的に沿う1件の研究を行った。 第一に,大学生430名を対象として,SPSと抑うつ傾向との関連に対する首尾一貫感覚(Sense of Coherence;以下,SOCと略記)の調整効果を検討した。SOCとは,自分の生きている世界は首尾一貫しているという感覚のことであり,強いSOCを持つ個人ほど抑うつ傾向の低いことが明らかにされている。分析の結果,SOCが強い場合はSPSと抑うつ傾向との間に有意な関連が示されなかった。この結果から,SPSが高い個人のSOCを強化することで,彼らの抑うつ傾向を低減できることが示唆された。第二の研究では,SOCの強化に寄与することが示唆されているライフスキルに注目して,SPSと抑うつ傾向の関連に対する調整効果の検討を行うため,大学生868名を対象に質問紙調査を実施した。分析の結果,SPSが高い場合には,情動対処スキルと対人関係スキルが抑うつ傾向の低減に寄与する可能性が示された。 最後に,既存のSPS測定尺度における因子構造や各項目の特性について検討するため,日本人成人1,626名に質問紙調査を実施した。分析の結果,各項目は個々人のSPSの程度を識別できる性質を有していた一方で,因子構造については一部で先行研究と異なる結果が示されるなど,いくつかの課題も指摘できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,令和元年度は,高いSPSを有する個人における抑うつ傾向の低減に向けた基礎的知見を提供することができた。またSPSの測定尺度については,いくつかの課題が見出されたものの,先行研究では注目されてこなかった各項目の特性について検討を行うなど,新奇性の高い結果を示した点は評価できよう。これらの研究成果を踏まえて,最終年度(令和2年度)には,より詳細な知見を得ることが期待される。したがって,令和元年度は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況を踏まえ,令和2年度は,以下に示す2件の研究を計画している。第一に,SPS測定尺度の妥当性について,さらなる知見を得るため,生理的指標との関連を検討する。具体的には,大学生20名程度を対象に認知課題を実施し,その前後での心拍数や収縮期/拡張期血圧の変動を観察する。第二に,SPSと抑うつ傾向の関連における機序を検討するため,令和元年度の研究でも取り扱ったSOCやライフスキルといった要因に注目したモデルの構築,および検証を試みる。最終的には,これらの結果を踏まえて,高いSPSを有する個人の抑うつ傾向の低減に向けた具体的な支援策の提案を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においては,すでに収集を終えたデータの論文化に若干の遅れが生じており,その投稿に向けた英文校正費として計上していた費用が執行されなかったため,次年度使用額が発生した。次年度は,予定通りに論文化に向けた英文校正費として使用する予定である。
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