研究課題
心理支援場面で用いられる代表的なアセスメント方法であるロールシャッハ法について、検査者(心理臨床の専門家)が被検査者のロールシャッハ・プロトコルのどこに着目して、人物像のアセスメントを行っているのか?というのが本研究のリサーチ・クエスチョンである。ロールシャッハ法は非構造的な刺激図版(インク・ブロット)を提示して「何に見えるか」を問う心理検査である。そこでの反応から被検査者のパーソナリティや行動特徴、精神機能をとらえることができる。分析・解釈にあたっては多様な指標が用いられるが、質問紙法や知能検査・発達検査と異なり、人によって自由に産出された反応のどこからどのように見ていくかは検査者側のよって立つ理論的基盤や経験にもとづき手順が一定ではない。そこで、臨床心理士の資格をもつ実践専門家および臨床心理学を学ぶ大学院生を対象とした調査を実施し、臨床経験の違いを検討した。その結果、10年以上の経験をもつ中長期の熟練群と実践訓練中の初学者群とでは、着目点そのものに大きな相違はないが、着目の幅(多様性)とさらに解釈まで踏み込んだ着目をしているかどうかについては差があることがわかった。また、10枚のロールシャッハ図版のうち、そのような群間差が生じるものとそうでないものがあった。2020年度はそうした量的・質的分析を進めることができた。また、先行文献のレビューを行い、ロールシャッハ法に限らず投映法心理検査解釈における専門職の熟練プロセスについて検討した。結果の詳細具体については2021年度中に学会誌投稿を予定している。また、本研究の成果をまとめることにより、心理検査のみならず心理臨床的な人間理解の熟達過程について示唆が得られ、心理専門職の養成教育に役立つ知見が得られると考えられる。報告書を作成し、提言を公開する予定である。
3: やや遅れている
2020年度はコロナ禍のため、研究代表者および共同研究グループメンバーのいずれも本務である大学や病院等支援機関において、通常業務に加えて遠隔による職務遂行など多くの対応に追われることとなった。また、分析作業と結果の検討作業については、ZOOMを用いた会合で実施したが、その頻度は縮小せざるを得なかった。以上により、これまでの成果をまとめ学会誌投稿をするという段階には至らなかった。
研究成果発表を行う。「心理臨床学研究」への投稿を準備中である。また、本研究全体の報告書の作成に向けてまとめを行う。報告書には、心理検査を用いたアセスメント・スキルに関する熟達プロセスの検討、具体例としてロールシャッハ法における着目点の検討、心理専門職の養成教育に対する提言、を含める計画である。本来であれば2021年度に開催が予定されていた国際学会で発表を予定していたが、世界的なコロナ禍のため1年延期となった。研究期間が最終年度となるが、1年繰越しをして総括作業に取り組みたいと考えている。
コロナ禍により本務多忙となり分析作業に時間がかかったこと、及び、学会等における情報収集が困難であったことから、予定していた使用ができなかった。次年度は学会誌投稿、報告書準備、学会・研修会出席、共同研究グループの連絡等に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
臨床心理研究-人間環境大学附属臨床心理相談室紀要
巻: 15 ページ: 85-96
青年期精神療法
巻: 16 ページ: 4-14
Child Indicators Research
巻: 14 ページ: 871-896