最終年度は主にこれまで収集したデータの整理と、論文の作成を行った。最終年度までに実施した研究の成果は、(1)空間性注意におけるバイアスとその測定法に関する研究、(2)左右弁別能力の特性とその測定法に関する研究、(3)利き足の基本的な定義とその測定法に関する研究に大別される。 (1)に関しては、オーストラリアで開発されたgray scales taskを導入し、主に健常者における偽性無視の性質を検討した。その結果、健常者の空間性注意には、水平方向では左方へ、垂直方向では上方へのバイアスが存在すること、またそのバイアスには利き手や性別の影響は認められないこと、加齢による変化も生じないことを確認した。さらに偽性無視は心的数系列にも生じること、刺激を視覚的に提示した場合には表記(アラビア数字、漢数字、かな数字)の影響を受けることが分かった(現在論文原稿を作成して投稿中)。 (2)に関しては、左右弁別能力には大きな個人差が存在すること、また性別や利き手の影響は認められないことを確認した。 (3)に関しては、質問紙法による好みの測定と、各種の検査課題によるパフォーマンスの比較検討から、利き足の定義の難しさと測定の問題点について検討を行った。 しかし、研究のもう一つの柱であった社会的行動障害に関するインタビュー研究は、新型コロナ感染症の影響と研究代表者の移動によって中断し、まだ十分な成果があがっていない。 それらの基礎的な研究に加えて、脳損傷者やその家族のストレスを軽減するための心理療法的なアプローチとして、マインドフルネス瞑想や心理劇のプログラムについても基礎的な研究を行った。また、それらの研究成果を神経心理検査に関する総説や、解説書の中で紹介した。
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