自閉スペクトラム症(ASD)者における共感の構造をとらえるため、昨年度に引き続き文献研究を進めると共に、データの整理に取り組み、それらの分析・考察と学会発表等を行った。 文献研究に関しては、自閉スペクトラム症について、臨床心理学だけでなく認知神経科学や哲学・思想の側面からも検討を加えた。また、近年、データの分析手法として急速な発展と遂げているテキストマイニングについて、方法論的な側面から検討を行った。 昨年度までに収集したTATデータに関しては、ASDの中学生分および定型発達の中学生分について全て電子データ化を済ませた。また、前者から得られた対人コミュニケーション質問紙と雨中人物画の結果についても、TATデータと紐付けがなされた。 そして、これまでに得られた他のデータも援用して、日本犯罪心理学会において口頭発表を行った。この発表では、「TAT関係相」の妥当性の検証について取り上げた(関係相は共感性を把握するための基礎的指標となり得るため)。その結果、関係相のカテゴリーの多くは自我態度スケールと無理のない相関が認められた。また、関係相のコーディングが、テキストマイニング用ソフトウェアによる自動分類によるものだった点も指標の客観性確保を目指す上で意義深い成果であった。さらに、紀要論文では、関係相とMMPI新日本版との間の相関を検討した。その結果、第IカテゴリーではExplおよびPas-F、Ⅰ.Concにおいて、第ⅢカテゴリーではProv/SerおよびHarmにおいて、各関係相の定義と矛盾しない方向の相関が認められた。すなわち、関係相には一応の妥当性が備わっていることを示すことができた。以上の内容は、前年度に得られた「ASDの中学生は対人的関心の認知的側面はある程度保っている一方で、能動的に対人的関心を向ける側面や情動的な側面は不得意とする傾向がある」という知見を、さらに詳細に分析するために役立つ成果であった。
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