研究課題/領域番号 |
18K03113
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
西村 馨 国際基督教大学, 教養学部, 上級准教授 (70302635)
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研究分担者 |
上地 雄一郎 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (80161214)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 愛着 / メンタライジング / 支援者との情緒交流 / グループセラピー / トラウマ / 児童福祉施設 / 心理教育 / 心理査定 |
研究実績の概要 |
H30年度の研究実績は大別すると、1.児童・思春期のグループセラピーにおけるメンタライジングの働きに関する事例報告・事例研究、2.福祉領域において愛着が健全に発達しなかった児童の理解と、その具体的方法に関する検討に関する研究会議、3.愛着トラウマを含む、さまざまな対人トラウマが生起する社会的ダイナミクスについての理論的考察、の3つになる。1.についての成果としては、支援者に対して非常に攻撃的、批判的に関わる子どもの背後に、愛着に関わる強い求めとそれゆえの恐れや回避見受けられること、支援者は子どもの表面的な言動に振り回されずに、その愛着にまつわる情動を理解し(メンタライズし)、相手を脅かさずに関わる所から、仲間同士の関係展開も生じてくることが見出された。愛着修復の過程において、嘘、甘え、からかい、ふざけ、じゃれつき等が過度に生じ、支援者は否定的感情を強く喚起され、方向性を喪失する体験をするが、支援者が現実的枠組みを踏まえて情動調整し、子どもも、いったん関係が破綻しかかるものの、自ら修復していくところに治療的展開があることが見出された。適切なメンタライジングの涵養に加えて、生活場面を共有するキャンプなどの方法、身体的な接触を含んだ愛着の表現の受容などが加えられる。2.についても、施設等において愛着の健全な発達や修復のために、身体的接触を含む愛着行動の理解を含めたメンタライジング能力が発達していく支援が有効であると確認された。3.については、日本文化に共有された、トラウマ体験の結果生じる恥の感覚を克服するプロセスを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度は、愛着の課題を持つ児童・思春期の子どもへの各種アプローチのメンタライジングの視点からの整理、愛着の重篤な問題を抱える子どもの施設における対処の現状についての調査、親への支援法の構築と実践、メンタライジングの機能の査定法開発の準備に取り組んだ。 愛着トラウマを含む対人トラウマの社会集団レベルでの処理における恥や罪の感覚とその克服過程について国際学会で報告し、これまでの成果とあわせて論文とした。 研究発表については、愛着の問題の修復に果たすメンタライジングの役割について、児童・思春期のグループセラピーを中心に発表してきた。また、児童福祉施設における愛着の課題への治療的関わりについて、矯正、福祉、医療、教育などの専門家を交えた研究会議、研究交流を大小さまざまに行った。 メンタライジングを重視する臨床実践、研究については、その本拠であるアナ・フロイトセンター(ロンドン)のN.ミッジリーとの研究交流が開始した。西村、上地が中心となって子どものMBT(メンタライゼーションに基づく治療)のテキストの翻訳を始めるとともに、基礎技能訓練の準備を開始した。また、2人が運営委員を務める日本メンタライゼーション研究会がアナ・フロイトセンターからA.べイトマンとP.フォナギーを招いてMBTベーシックトレーニングを開催した。それが契機となって、子どもの愛着を修復する技法について、実践研修を展開し始めた。 臨床実践を通したデータ収集については、児童・思春期グループにおける各種の活動と方法を開発し、実践を通して継続しているほか、それらの子どもの親への心理教育的グループを開催し、メンタライジングの教育と、能力開発に取り組んでいる。 さらには、関連研究者とともに、発達障害児のMBTによる支援、その親への支援、親のメンタライジング能力の査定方法開発を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
1.データ収集と分析:現在実施中のフィールドワークや臨床実践プロジェクトについては引き続きデータ収集を継続していく。また、これまでに実施して収集してきた臨床データ(児童グループ、思春期グループ、親支援グループ)や研修会記録(児童福祉臨床の研究会、グループセラピーの研究会、技法研修会)を、それぞれの目的に沿って分析し、考察を進める。 2.方法論構築と実施:現時点で、メンタライジング能力(省察機能)の質問紙法による査定法の開発と、親支援のための期間制限式心理教育グループの構成・実施が検討されている。それぞれ、デザインを明確にして準備を進め、実施、検討する。 3.研究会での検討・学会発表:収集されたデータの分析と考察を元に、小規模な研究会での研究交流を重ね、考察を深め、さらなる方法論の模索を続けるとともに、随時、学会での発表を重ねていく。思春期青年期精神医学会(2019年7月)、集団精神療法学会(2020年3月)等で発表を行う予定である。メンタライジング能力を高める親支援グループ、愛着の課題を持った子どもへの心理・社会的介入法の展望については、それぞれ論文投稿の予定である。 4.子どものMBTについての翻訳を完成させるとともに、MBT-Cの実践手法について、検討し、継続研修を通して、技法の洗練を図っていく。 5.愛着の阻害要因として、これまで虐待、マルトリートメントによるトラウマを第一義としていたが、発達障害的要素のの関わりの中でそれが生じてくることが、現実には少なくない。そのような経緯を持った児童・思春期の愛着の傷つきをどうとらえるか、事例の検討や研究交流を通して理論枠組みを整備し、研究デザインを構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度に海外学会参加を予定していたが,本研究にとって重要な研究者の来日が決まったため,旅費を使用する必要がなくなった。その代り,その来日に合わせた研究会,その後の研究会を開催した結果,予定額を下回ることになった。 繰越金は,フィールドワークのための交通費,研究会の講師謝金として使用する予定である。
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備考 |
(研究論文「Trauma, shame, guilt and the Social Unconscious in Japan」の大学リポジトリ)
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