2020年度は,これまでに実施してきた研究データをまとめ,論文化した。具体的には,イメージトレーニング法による社交不安者の認知の変化に関する実験データをまとめ(研究1),イメージ可視化の手法を用いた研究結果を雑誌に投稿し採択された(研究2)。 研究1では,社交不安者に見られる認知機能の中でも特に解釈バイアスに注目し,のべ116名に対し実験を行ってきた。解釈バイアスとは,ネガティブともポジティブともとらえることができる状況をネガティブに解釈することを意味する。このバイアスが生じる原因として,社交不安者が他者から自分自身がどう見られているか“他者視点”で状況をイメージすることがあげられている。そこでイメージトレーニングにより,自分の視点から状況をイメージする“自己視点”に切り替えることで,解釈バイアスが低減するか検討した。結果としては,イメージトレーニング自体は有効で,視点の切り替えはある程度可能であったものの,特に社交不安の高い人は他者視点に固執するため,容易には自己視点へとイメージを変えることが難しいことが明らかとなった。そのため,解釈バイアスも簡単には変容せず,課題は残った。この結果について,Salemink准教授との共同研究2本を執筆中である。 研究2に関しては,イメージ研究するうえで重要となるイメージの可視化の技法を習得するために行った研究である。日本人のイスラム教徒に対する顔イメージの移り変わりについて検討した研究で,このイメージ可視化の技法は,今後社交不安者へと応用する予定である。すなわち,社交不安者は他者の表情をネガティブにイメージしがちであるため,他者から否定的評価を受けていると考える傾向にあると思われる。しかし,他者の表情に対するイメージの可視化は検討されておらず,今回修得した技法を応用することで,この仮説を検討することが可能になる。
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