研究課題
双極性障害の好発年齢期は20代半ばとされているものの(Anderson et al., 2012),子ども期の双極性障害の発症も少なくなく,成人期の発症に比べより深刻な疾患と関連をもつことが指摘されている(Blader et al., 2007)。しかしながら,子どもの双極性障害は注意欠如・多動性障害(ADHD)との鑑別の困難さや,併存頻度の高さも指摘されている。そのため,特に子どもの双極性障害の影響要因を考える際には,ADHDの併存の可能性を視野に入れて検討することが重要である。令和元年度では,当初の研究計画通り,双極性障害,ADHD,抑うつエピソードの診断を受けている子ども(10-18歳)と養育者を対象とした質問紙調査を継続して行った。また,これまでに得られている調査データから,子どもがADHD傾向の評価基準を満たしているかどうかによって,自己制御と双極性障害傾向および双極性障害傾向に関与する諸症状との関連が異なるのかどうかについて,小学生(4-6年生)と中高生の発達段階ごとに検討した。その結果,まずADHD傾向の評価基準を超えていない群では,小学生と中高生ともに,自己制御の下位次元である興味・関心の一貫性が双極性障害傾向と自傷/他害行為傾向との間にそれぞれ負の相関を持つことが確認された。一方,ADHD傾向の評価基準を超えている群では,小学生と中高生で異なる結果が得られた。小学生では,努力と忍耐が双極性障害傾向と自傷/他害行為傾向との間にそれぞれ負の相関を持つことに対して,中高生では興味・関心の一貫性と睡眠の問題との間にのみ負の相関が認められた。このことは,とりわけ児童期の子どもの双極性障害傾向の低減のためには,子どもの不注意や多動行動の徴候の多少に応じて,興味の一貫性か忍耐力のどちらの側面に比重を置くかを判断したうえで,これらを促すような働きかけが有効かもしれない可能性を示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
本年度の調査研究は当初の計画通りに進んだため,おおむね順調に進展していると判断した。これまでに収集したデータについては,順次分析を行っていき,出来る限り早く結果をまとめて研究成果として発表できるように進めていく。
現状において,研究計画の修正や変更などの予定はない。次年度に予定している質問紙調査の協力者の状況や開始時期などを考慮したうえで,研究計画の遂行を妨げることのないように,必要に応じて調査方法の工夫や配慮をしながら調査を実施していく予定である。次年度も引き続き,適宜,精神医学の専門家にアドバイスを求めながら,さらなるデータの蓄積と研究成果の発表に向けて努めていく。
年度末に予定されていた研究打合せと調査の一部が次年度に延期されたことや,学術雑誌への投稿予定が若干遅れたことにより余剰が発生した。本年度の余剰分は,次年度において当初の予定よりも調査費用,投稿料,旅費がかかるため,これらに充当する計画である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Twin Research and Human Genetics
巻: 22(6) ページ: 800-808
Journal of Multidisciplinary Healthcare
巻: 12 ページ: 1033-1041
10.2147/JMDH.S228320