研究課題/領域番号 |
18K03140
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
山崎 勝之 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (50191250)
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研究分担者 |
内田 香奈子 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (70580835)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自律的セルフ・エスティーム / 他律的セルフ・エスティーム / タブレットPC版潜在連合テスト / 児童 / 教育プログラム |
研究実績の概要 |
本研究では、セルフ・エスティーム(Self-Esteem: SE)を、健康・適応・遂行を高める自律的SEと低める他律的SEに弁別し、そのタブレットPCを用いた測定方法の開発から、育成教育プログラムの開発と効果評価を行い、最終的に、概念と測定から教育までの包括的な適応的SE情報を研究界のみならず学校教育界に提供することを目的とした。 今年度は、まず、自律的SEと他律的SEの両SEを同時測定できる児童用のタブレットPC版潜在連合テストの開発を行った。当初は2つのSEのテストを別々に開発する予定であったが、開発過程で両SEを同時に測定できる測定方法にたどり着き、同時測定方法が開発できることが判明した。 開発では、まずAndroid OSのタブレットPCにAndroid Studioの下JAVA言語により検査プログラムを開発した。その後、予備研究で施行上の問題を改善し、信頼性と妥当性の検討段階に入った。信頼性では、再検査法による信頼性を確認し、約1か月の間隔での再検査の結果、高い級内相関とピアソンの相関係数値を得て信頼性が保証された。次に妥当性の検討では、テスト得点の高低児童を抽出し、クラス担任の教員に自律的SEと他律的SEの観点から普段の生活ぶりの評定を行ってもらった。その結果、テスト高低得点と担任の評定結果は一致し、妥当性が確認された。また、既存の紙筆版での自律的SE潜在連合テストとの関連も検討し、その結果有意な正の関連が見られ、ここでも妥当性の存在が確認された。 さらに、この検査により自律的SEが高いとみなされた児童は担任による学校生活での適応の評価は高く、逆に他律的SEの評価は低いことが同時に確認され、高自律的SE児童の適応水準の高さ、高他律的SE児童の低さが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、セルフ・エスティーム(SE)を望ましい自律的SEと望ましくない他律的SEに弁別して測定するタブレットPC版の潜在連合テストの開発は困難を極めることが予想された。事実それぞれのSEの開発は試行錯誤の連続であったが、開発過程の最終段階で、両SEが同時測定できることが判明されたことから同時測定の方向に開発方針が変更され、研究は発展的に継続した。その結果、信頼性と妥当性を備えた標準化レベルの高い、両SEを同時に測定するタブレットPC版潜在連合テストが完成された。この両SEの同時測定法の開発は、各SEを個別に測定する方法と比較して、精度高く両SEの同時比較を可能とし、研究の大幅な進展が見込まれる。 このテストは簡便で、開始から5分ほどで完了できる上に、タブレットPCさえあれば、テスト作成や採点には時間をとらない操作性の高いものであった。とりわけ、従来の試筆版において労力と時間を要した誤反応の処理やSE得点化は完全自動化された。こうして、本タブレット版に既存の紙筆版潜在連合テストを合わせれば、学校の環境状況により使い分けることができる利便性が生まれ、汎用性のみならず実際上の適用性が高くなった。 学校においてはセルフ・エスティーム(自己肯定感、自尊感情)の育成は重要事とみなされているが、その扱いには大きな問題があった。しかし、その問題を克服して望ましいSEを育成する方法がなくその改善は放置されていた。今回、本研究によりこのタブレットPC版が完成され、既存の紙筆版と合わせて適応的な望ましいSEの測定方法を学校に提供できる状況となった。このことにより、本当に望ましいSEを育成し、問題のあるSEを低減させる教育の準備が整い、次年度の教育プログラム開発と効果評価への研究の道筋が整った。 今年度はこのような研究成果をもたらすことができ、研究の進捗状況はおおむね順調であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、予定どおり変更なく、自律的SEの予防教育プログラムの開発を行う。現行の「自己信頼心(自信)の育成」プログラムをさらに自律的SE育成に適合するように教育目標と授業方法を改訂する。教育目標の改訂においては、自律的SEの特性と形成過程を考慮し、目標の操作は非意識的に行うことを強調し、方法では、前プログラムの教育理論を踏襲し、非意識内の情動を十分に喚起し、その喚起の中で教育目標が達成されることを狙う。また、授業実施者にとって授業運営を容易にするという課題も達成する。開発後は高学年の児童に適用し、児童の躓きを確認しながら、参加動因を高める点を中心に改善点を探る。また、授業者の実施ぶりから運営操作上の改善点を確認する。そしてその改善を経て、教育効果の検討のために適用するプログラムを完成させる。また、予備的に効果評価も実施する予定である。 最終年度においては、完成した自律的SEプログラムの効果評価の研究を本格的に実施する。教育実施群と比較対照群を設定し、両群を教育前後で比較した上での効果評価を行う。効果評価のための測定は、タブレット版PCを使用して両SEの変化をとらえる。教育群は、小学校の高学年複数クラスを設定し、比較対照群も同様に設定した上で、両群とも同タイミングで評価を実施する。 この効果評価の研究後には、3年間の研究成果を学校に広める方途を考えたい。学校においてはSEは最も重視されている心的特性の一つであるが、その理解と扱いは十分ではない。そこで、この概念の正しい把握を促す資料とともに講演や研修を展開し、同時に測定方法や教育方法を実習を交えて伝える。そして教材の作成や授業実施方法を直接的に指導し、教育の円滑な適用をはかる包括的サポートプランを考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
<理由> 今年度は、研究補助のため人件費・謝金の使用を多く計画し、実際にほぼそのとおりに使用した。本年度の使用状況と来年度の研究計画から、次年度の配分予定の予算では処理できない研究補助のための人件費・謝金が必要になることが予見された。とりわけ、次年度は研究補助の必要度が高まる教育プログラムの開発と適用が研究計画にあるため、この予算の扱いが必要になる。このことから、上記の額を次年度に回すこととなった。 <使用計画> 主として教育プログラムの開発における教材開発と作成の補助、そして実際に教育プログラムを学校において実践的に適用する際の補助のため人件費・謝金を増額して使用する。また、教育プログラムの実施による大量のデータの入力やその整理においても人件費・謝金を使用する計画を立てている。
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