近年,心理的問題に対する身体志向の心理療法が国内外で非常に注目されているものの、両者の従来の研究では,心理的側面や脳機能に関する検討が中心であり,実際の身体の状態との関連については不明な点が多い。そこで本研究課題では身体への注意の向け方の違いや心理特性によって身体感覚への気づきや実際の自己制御にどのような違いが生じるか実証的に検証することであった。また、本研究は自己制御について,実際の動作や筋緊張をバイオメカニクス(生体力学)の手法を用いて客観的に計測を行い,心理的指標との関連について検討を行うことを大きな特徴とする。 本研究課題では、2022年度までに(1)身体への注意の向け方および心理的特性の違いと自己制御のあり方との関連の検討、(2)アレキシサイミア傾向における筋緊張と筋弛緩の身体感覚の正確性に関する検討、の2つの実験的研究を実施した。(1)では、立位保持課題や立位重心移動課題でアレキシサイミア傾向と重心動揺に関連があることが示された。(2)では、アレキシサイミア傾向に着目し、筋緊張や筋弛緩の感覚の正確性について、主観的評価と客観的評価(表面筋電計による筋活動量の計測)の乖離から検討したところ、アレキシサイミア傾向高群の人は低群と比べて、筋緊張の感覚の正確性が低下する傾向があることが示唆された。 最終年度である2023年度は、これまで実施した研究に関する分析をさらに進めた。上記の(1)ではマインドフルネス傾向との関連について検討を行ったところ、「判断しない態度」と立位重心移動課題時の姿勢安定度の高さとの間に関連があること等が明らかになった。また(2)では実験の試行回数を重ねると、アレキシサイミア傾向が高い場合でも筋緊張や筋弛緩の感覚の確実感が増加すること等が明らかとなった。
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