研究課題/領域番号 |
18K03143
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
小川 千里 琉球大学, グローバル教育支援機構, 准教授 (90340760)
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研究分担者 |
煙山 千尋 岐阜聖徳学園大学, 教育学部, 准教授 (10615553)
勝谷 紀子 玉川大学, 教育学部, 非常勤講師 (90598658) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大学生アスリート / カウンセリング / スポーツ臨床 / 依存 / 依存四類型 / 大学生アスリート版依存性測定尺度 / 自立 |
研究実績の概要 |
国際大会等で活躍する大学生アスリートの多くは、幼少期からスポーツの才能教育を受けているが、彼らの中には体重の激減や度重なる怪我、ギャンブル依存等を訴える者がいる。本研究は、これらの現象の背後に家族・家族的(監督、コーチ等の指導者)関係への心理的依存があることを示してきた。そこでは依存がこの時期の自己の発達への力を育む妨げとなり、自立が進まない様が浮き彫りになった。しかし、才能教育下でも大学卒業を機に競技引退する者は多く、自立は彼らにとって最優先課題のはずであるが、彼らの家族らへの依存と自己の発達のメカニズム、および支援の方略は学術的にも詳らかにされておらず、それを解明して自立を支援することが急務である。本研究は、依存と自立の分岐点にある大学生アスリートを対象とし、家族らへの依存とその後の自立・社会的適応、および適切な支援の方略について、(A)定量的調査(才能教育の経験を有する者と一般運動部員の比較調査)、(B)定性的調査(5年経過者へ縦断調査)により解明する。そして、(C)依存の状態に応じた大学生アスリートの支援方法の開発と効果を通じて、彼らの自立と社会的適応の実践的支援について検討する。 平成30(2018)年度は、才能教育下にある大学生アスリートを対象とし、家族らへの依存とその後の自立・社会的適応、および適切な支援の方略についての解明を目的に(A)定量的調査(測定尺度開発を含む)、(B)定性的調査(新規調査を含む)を実施した。また、(C)支援方法の開発に関連すると思われる文献を収集し、検討の準備を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の採択後、本年度初頭の研究開始前に、研究代表機関で倫理審査を申請したところ、担当者により倫理審査を行わないとの対応(中身のない研究、質問項目や心理支援の方法が出来上がっていないため審査ができない等の返答)を受けた。このため、年度中の研究開始を目指し、本研究組織内外(研究協力者と組織外)に、研究の在り方や研究倫理に専門的な知識を有する倫理アドバイザー5名(各所属機関等での研究倫理教育の修了者)を迎え、倫理的検討を受けて進める方法を採った。これにより実質的な研究開始が平成30(2018)年9月となり、年度当初から数か月程度の時間を要した。また、年度途中で研究分担者1名の削除(体調不良等)も伴ったことから、研究進捗は当初の予定よりやや遅れている。 しかし、研究分担者および研究協力者、倫理アドバイザー、そして才能教育の経験を有する大学生アスリートが在籍する複数の大学の多くの調査協力者から、本研究への理解と協力を得られたため、(A)では「大学生アスリート版依存性測定尺度(Dependence Scale for University Athletes : DSUA)」(試作版)を実施し、分析に進むことができた。 (B)では、7名の調査協力者による調査を終了し、現在分析中である。また、調査協力者とのスケジュールを現在調整中のものについては、丁寧に準備を行い実現に向かっている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は前年度に行った(A)と(B)の調査の継続、分析、および成果公表を行う。そしてこれらに基づき(C)を開始する。(A)では、前年度実施した「大学生アスリート版依存性測定尺度(Dependence Scale for University Athletes : DSUA)」(試作版)の分析と結果をもとに「DSUA」(完成版)の開発と調査を実施し、大学生アスリートの依存性と自立に関する特徴の把握に努める。倫理的配慮の強化のため、調査実施前には倫理教育(CITI等)を修了した倫理アドバイザーらの検討事項を考慮し、実施準備、調査協力者への送付を行う。DSUA(完成版)実施に当たっては、才能教育の経験を有する大学生アスリートが在籍する複数の大学より実施協力について既に内諾を得ている。これらの結果に基づいて、随時学会発表、論文発表を行う。 (B)では、前年度に行った定性的調査のデータ分析と結果の集約、成果公表を進める。調査協力者とのスケジュールが現在調整中のものについては、2019年度前半までに調査終了を目指す。その後に(A)と(B)の結果を包括的に検討して(C)に着手したい。この際、研究協力者(パーソナリティ心理学、スポーツ教育学、日本代表経験のある元アスリート等)とも協働して開発、実施する。 2020年度は、国内外学会(心理臨床学会、ICP2020等)での発表、学術誌(心理臨床学研究、体育学研究等)投稿により成果を公表する。また、一般の人々に対して研究成果を発信する機会として、アスリートや研究者との講演会を開催する。そして、これと並行して本研究の成果を集約した報告書を作成する。以上により、東京五輪前後の大学生アスリートの自立に向けた実践的支援に還元させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用分が生じた理由は三つある。一つは、本研究課題採択後、研究代表機関の担当者から倫理審査を行わない等の対応を受けたため、研究開始を阻まれ、執行が遅れたことである。そこで、研究計画にあった「研究代表機関の倫理審査」に替わる方法の検討と実行を経て、実質的に平成30年9月に研究を開始することになったため、平成30(2018)年度の予定分を十分に執行できず、繰り越すこととなった。 二つ目の理由は、年度途中で研究分担者1名の削除(体調不良等)により、当初執行予定として申請していた物品の購入、研究補助のための謝金等を執行できなかったことである。 三つ目の理由は、割引運賃等の利用により、予定していたよりも安価に出張できたことである。 次年度使用分は、質問票調査(計画A)およびインタビュー調査(計画B)について、前年度実施を完了できなかった計画を行う。これについては、可能な限り2019年度前半までの実施を目指している。このため、調査のための旅費、分析のための分析補助者への謝金の使用、消耗品の使用、および前年度の調査と分析で得られた結果を随時発表すべく、学会発表のための旅費の執行を予定している。また、質問票調査または心理支援方法の立案、および研究成果公表の立案に尽力いただける研究協力者への謝金執行を予定している。また、可能であれば新規の研究分担者を探索し、その分担金として検討する。
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