研究課題/領域番号 |
18K03170
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 敦命 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80547498)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 特性推論 / 顔 / 個人差 / エイジング |
研究実績の概要 |
本研究では、種々の特性判断において顔に頼る認知傾向を「人相依存」と名付け、人相依存がなぜ人間に見られるのかを明らかにすることを目指している。具体的には、社会的望ましさなどのバイアスの影響を受けにくい人相依存の適切な測定法の開発(研究1)、および、開発した測定法などを活用した人相依存の生成・維持メカニズムの探求(研究2)を主要な目標としている。令和元年度においては、研究1の一環として、顔画像の印象をSemantic Differential尺度上で評価したデータから人相依存傾向を定量化する方法(平成30年度に開発)の妥当性を検証する調査を実施し、この測定法が社会的望ましさや極端反応傾向などのバイアスに対して頑健であることを明らかにした。研究2に関しては、正確な科学的知識(顔にもとづく印象は不正確だという知識)を付与することによって顔にもとづく特性判断を抑制することができるかを問う研究、および、顔から種々の特性を判断できると信じる人(人相学的信念の高い人)は実際にそうした判断に長けているのかを問う研究を実施した。結果として、知識付与だけでなく説明責任を課さなければ顔特性判断の抑制はできないことや、人相学的信念の高い人による顔特性推論は正確であるというよりもステレオタイプ的であることが示唆された。こうした研究成果をPsychonomic Society、日本心理学会、日本感情心理学会の年次大会で発表したほか、これまでの研究成果を概観した講演をBrainconnects 2019で行った。日本心理学会での発表は研究成果の意義や新規性が評価され、学術大会優秀発表賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、種々の特性判断において顔に頼る認知傾向を「人相依存」と名付け、人相依存を測定する新たな適切な方法の開発(研究1)、および、人相依存の生成・維持メカニズムの解明(研究2)を目指している。研究1の一環として、前年度は、顔画像の印象をSemantic Differential尺度上で評価したデータから人相依存傾向(顔特性推論を極端に行いやすい傾向)を定量する方法を作成した。本年度(令和元年度)は、この顔特性推論の極端さが、任意の尺度について社会的に望ましい選択肢を選びやすい傾向(社会的望ましさバイアス)や極端な選択肢を選びやすい傾向(極端反応バイアス)を反映したものかを検証した。結果として、顔特性推論の極端さは全般的な回答バイアスだけでは説明困難であり、社会認知の個人差として捉えられることを示すデータを得た。一方、研究2に関しては、正確な科学的知識(顔にもとづく印象は不正確だという知識)を付与することによって顔にもとづく特性判断を抑制することができるかを問う研究、および、顔から種々の特性を判断できると信じる人(人相学的信念の高い人)は実際にそうした判断に長けているのかを問う研究を実施した。前者については、知識付与によって顔特性判断が抑制されるのは、同判断についての説明責任が課された場合に限られることを示唆する結果を得た。また、後者については、人相学的信念の高い人が顔特性推論に長けているわけではなく、多くの人が行うステレオタイプ的な推論を行っていることを示唆する結果を得た。これらの研究成果をPsychonomic Society、日本心理学会、日本感情心理学会の年次大会で発表し、日本心理学会では学術大会優秀発表賞の評価を受けた。以上のように、研究1、研究2ともに着実な研究知見を蓄積しており、研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き、Semantic Differential尺度を用いた人相依存の測定法を用いて、人相依存の高い人がどのような認知的・社会感情的属性を持つかを検討し、人相依存の生成・維持メカニズムに関する考察を進める。また、こうした自己報告にもとづく人相依存の個人差と、反応時間などを用いて間接的に測定した人相依存の個人差との関係についても検討する。加えて、人相依存の正確性や社会的影響性を探る研究も続行する予定である。ただし、顔からの特性判断に関する研究は進展が目覚ましいため、最新の研究動向を踏まえ、ホットな話題を研究の中に随時取り入れたり、種々の研究の優先順位を適切に更新したりすることで、インパクトのある研究成果を着実に挙げられるように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウェブ調査における有効回答率が当初見込みよりも高く、予定よりも低い調査実施費用で十分なデータを取得することができたため。次年度のウェブ調査ないし研究成果公表のための費用などとして繰越分を使用する計画である。
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