研究課題/領域番号 |
18K03172
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
谷内 通 金沢大学, 人間科学系, 教授 (40324058)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 食物嫌悪条件づけ / 古典的条件づけ / 潜在制止 / 両生類 / 爬虫類 / アカハライモリ / リクガメ |
研究実績の概要 |
本研究は,食物嫌悪条件づけを切口として,アカハライモリにおける潜在制止の検討により注意の進化的起源について明らかにするとともに,食物嫌悪条件づけの諸現象の詳細な検討により,両生類における快不快情動の存在について解明することを目的とした。 主な成果は以下の4点である。(1)アカハライモリの食物嫌悪条件づけについて,食物に対する嫌悪感の条件づけではなく,毒物摂取後に新奇な食物を敬遠するようになる毒物誘発性新奇忌避に基づく可能性について検証した。その結果,食物CSと塩化リチウムの対提示によって生じる食物条件刺激(CS)摂取の低下には,一定水準で毒物誘発性新奇忌避が寄与しているものの,真の食物嫌悪条件づけも生じていることを明らかにした。(2)アカハライモリの食物嫌悪条件づけにおける潜在制止効果を検討した。食物AまたはBの先行提示後に食物Aと塩化リチウムを対提示した。しかし,食物Aの先行提示を受けないために潜在制止効果が生じないはずの条件においても食物嫌悪条件づけが認められなかった。食物嫌悪条件づけが認められなかった原因について,先行提示文脈と条件づけ文脈の一致性の効果を検討したが,有意な効果は認められなかった。一方で,条件づけ時に摂取する食物CS量をすべての個体で一定にするため少量の提示に留めたことが食物嫌悪条件づけが生じなかった原因であることを示唆する結果を得た。(3)両生類では食物嫌悪条件づけが生じないとした先行研究との相違の原因として,使用する食物CSの種類の効果を検討した。アカハライモリでは先行研究と同じ食物を含む幅広い食物で物嫌悪条件づけが生じることを明らかにした。(4)リクガメにおける食物刺激を用いた継時的負の対比効果について検討した。その結果,2種類の嗜好性の異なる餌に対する分化的な反応が確認されたが,継時的負の対比効果は認められないことを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していたアカハライモリにおける真の食物嫌悪条件づけの証明,および食物CSの種類の効果について明確な結果を得た。潜在制止に関しては,予想外にもCS先行提示を行わない条件においても条件づけが生じなかったため,条件づけが生じさせるための条件の検討を行う必要が生じた。しかし,この過程で,先行提示文脈と条件づけ文脈の一致性の効果や,条件づけ時に摂取する食物CS量の効果について新しい知見を得た。この予想外の結果による検討自体が新しい発見につながった。翌年度に持ち越された計画もあるが,全体的には予定していたものと同等程度以上の成果を上げることができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
両生類の検討では,引き続きアカハライモリを対象として,(1)食物嫌悪条件づけにおける潜在制止効果が生じるか検討する。毒物に先行した食物の機械的回避による不快情動を伴わない学習からは期待されない2つの現象をアカハライモリにおいて検討する。(2)食物嫌悪条件づけの二次条件づけでは,まず,第1の食物(CS1)を塩化リチウムと十分に条件づける。二次条件づけ段階では,第2の食物(CS2)を摂取させた後にCS1を摂取させる。CS1が不快情動を喚起するのであれば,CS2に対しても嫌悪が獲得されると予測される。 (3)修正版の条件性場所選好を検討する。まず,食物CSに十分な嫌悪条件づけを行う。次いで,2つの区画を持つ水槽の一方の区画でCSを摂取させる。CSにより不快感が喚起される場合には,テストでは以前にCSが提示された区画が回避されると予測される。 (4)爬虫類の検討では以下の3つを行う。(1)リクガメにおいて,嗜好性の異なる2種類の餌の予期せぬ変更による対比効果が生じるか,引き続き検討を行う。(2)カメ目において食物嫌悪条件づけが生じるか検討する。(3)リクガメにおいて潜在制止が生じるか,食物嫌悪条件づけ以外の古典的条件づけにおいて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
潜在制止に関しては,予想外にもCS先行提示を行わない条件においても条件づけが生じなかったため,条件づけが生じさせるための条件の検討を行う必要が生じた。このため,高額な機器を作成する必要がある研究,すなわち加速度変化を生じさせる機器を使用する食物嫌悪条件づけの再帰効果reinstatementや,特注の実験装置を使用する条件性場所選好の準備を年度内に行うことができなかった。このため,これらの機器の購入や作成を翌年度に持ち越すことにした。
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