アカハライモリを中心とした食物嫌悪条件づけとその学習過程を明らかにすることを目的とした検討を行った。その結果,毒物による中毒症状後に新奇な食物の摂取が抑制される毒物誘発性新奇忌避について適切な統制を行った場合でも,アカハライモリは無条件刺激として使用される塩化リチウムと対提示された食物を選択的に摂取しなくなることから,両生類においても真の食物嫌悪条件づけが生じることを初めて明らかにした。また,イモリにおける食物嫌悪条件づけを認めなかった先行研究との結果の相違の原因として,使用した食物刺激の差異について検討した。しかし,本研究が独自に使用したかまぼこ片だけでなく,先行研究と同じ牛肉やミルワームを条件刺激として使用した場合にも,有意な食物嫌悪条件づけを確認した。一方で,アカハライモリの食物嫌悪条件づけでは,個体差が大きいことも示された。すなわち,塩化リチウムとの対提示によって,条件刺激である食物を全く摂取しなくなる個体が存在する一方で,食物刺激の抑制がほとんど認められない個体も確認された。先行研究との結果の相違の原因としては,被験体の種差や実験計画の差異の他に,両生類の食物嫌悪条件づけにおける大きな個体差の存在の可能性について検討する必要がある。また,条件刺激としての食物の先行提示は,後の条件づけを阻害せず,アカハライモリの食物嫌悪条件づけでは潜在制止現象が生じない可能性を示唆する結果を得た。一方で,食物嫌悪条件づけにおける嫌悪情動の媒介ついて解明するために予定していた検討として,滞在する水溶液に付加した風味に対する嫌悪を獲得させることには成功しなかった。今後,食物嫌悪条件づけを嫌悪情動が媒介する可能性や,潜在制止現象の検討における注意過程や知覚学習等の詳細な学習過程について検討を行う必要がある。
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