COVID19のため病院での片側扁桃体損傷患者群についての継続を継続することが困難となったこともあり,食物視覚探索課題について比較対象となる健常統制群37名のデータを収集した.以前に収集したポーランドにおけるデータと比較することで,文化の影響を調べた.どちらの文化の被験者も,食物の画像をキッチンツールの画像より早く検出した.日本の被験者はファーストフードを日本食よりも早く検出したが,ポーランドの被験者はそうした食物のタイプによる差を示さなかった.こうした結果から,食物のすばやい検出は普遍的であるが,文化的経験により調整されることが示唆される. また同様に,食物閾下感情プライミングについて比較対象となる健常統制群29名のデータを収集した.併せて収集したダイエット行動について質問紙との対応を調べ,無意識の感情反応がダイエットの失敗にもたらす影響を調べた.食物とモザイク条件でのターゲット好き評定の差分は,ダイエット成功度と負の関係を示した.こうした結果から,ダイエットの失敗が食物への無意識感情反応の強さと結びついていることが示唆される. 次の神経心理学研究への予備実験として,食物画像を視聴中の生理的反応を測定する実験を健常統制群34名を対象として実施した.食物画像を見たときの主観経験(好き・食べたい・感情価・活性度)と生理信号(皺眉筋筋電図・大頬骨筋筋電図・咬筋筋電図・舌骨上筋筋電図・皮膚電位反応・心拍数)を計測した.その結果,大頬骨筋筋電図は,好き・食べたい・感情価の評定と正の相関を示した.食物画像に対する表情筋活動が,食物の主観感情経験を反映することが示唆される.
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