本年度は昨年度に査読付き国際学術誌へ投稿した論文の改稿を行った。その論文で報告している行動実験と同様のパラダイムで脳波を測定する実験のデータ収集を完了し,解析を行った。論文として投稿している行動実験で明らかとなっていた現象(外的基準による意思決定で高い価値が学習された刺激は内的基準による意思決定でも好まれるが,内的基準による意思決定で新奇に学習された最も価値の高い刺激ほどは好まれない)が再現された。この現象は,外的環境における価値基準からの影響を受けにくい人ほど認められており,またこの個人差と関連する神経活動を特定した。 研究期間全体では,主に以下の7つの成果が得られた。①内的基準による意思決定に計算論モデル解析を適用することを実現した。②外的基準による意思決定における計算論モデルのパラメータと内的基準による意思決定のパラメータとの関連(2つの意思決定における選択のランダムさに相関があること)を明らかにした。③内的基準による意思決定における選択のランダムさのみが自発脳波の自己相関の持続性と相関があることが明らかになった。④自発脳波の自己相関の持続性は,自己同一性の主観的感覚とも関連があることが明らかとなった。⑤外的基準による意思決定を通して学習された価値の高い刺激は,内的基準における意思決定においても価値が高く,好まれること。また,その刺激は内的基準による意思決定でも選択されることで,さらに価値が高まること(外的価値基準の内在化)が明らかとなった。⑥外的基準による意思決定で高い価値が学習された刺激は内的基準による意思決定でも好まれるが,内的基準による意思決定で新奇に学習された最も価値の高い刺激ほどは好まれないという現象(内発的に学習された価値の優位性)が示された。⑦その現象の個人差が自発脳波の自己相関の持続性の変化量と関連することも明らかとなった。
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