研究課題/領域番号 |
18K03178
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
橋本 佳奈 (岡田佳奈) 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 日本学術振興会特別研究員(RPD) (50528263)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 神経回路網 |
研究実績の概要 |
認知柔軟性とは、動物が刺激と行動、報酬の間の連合関係などを学習した後で、その刺激―反応―結果間の関係の変化に合わせて行動を変化させていく能力のことであり、適度な認知柔軟性によって学習内容の適切な変更を随時行うことは、動物の生存上不可欠なことである。この行動柔軟性の実行には、適切な記憶・学習や、状況の変化に対する気付き、適切な行動の判断、行動のコントロールと実行、というような様々な能力を要するため、大脳皮質-基底核回路を含む様々な脳領域を介した神経機構が推定されるが、その機構に関しては、まだ十分に明らかではない。本研究では、この回路内でも特に報酬についての学習に関して重要であり、特徴的なマイクロサーキットを持つ線条体に注目し、認知柔軟性に関与することが度々報告されている背内側線条体コリン作動性介在神経細胞を中心とした神経機構が認知柔軟性の機能をどのように果たしているのかを解明する。既に背内側コリン作動性介在神経細胞損傷が弁別学習のタイプや試行間間隔の長さによって行動柔軟性を抑制したり亢進したりすることを明らかにしてきたが、本年度の検討により、試行間間隔の違いによって起こる背内側線条体コリン作動系による空間逆転学習の双方向制御にとって、逆転学習時のコリン作動性神経細胞の活動こそが重要なのであって、薬理学的手法と損傷手法によるコリン作動系の不活性化の手法の違いや不活性化の時期の違い、当該神経細胞の損傷によって起こる前頭前野や線条体などでのニコチン作動性受容体の増加に代表される神経回路の物理的変化が重要な要因ではないことが示唆された。また、逆転学習遂行中のラットの線条体、前頭前野、海馬、視床領域のLFPとMUAを解析するシステムを構築し、得られたデータを解析したところ、領域毎に異なる活動と帯域特異的・時期特異的なコヒーレンスが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の遂行にとって認知柔軟性課題のどの時期のコリン作動性介在神経細胞の沈黙がどのような役割をするのかを解明することは大きな目的のひとつであるが、本年度の研究によって、試行間間隔の違いによって起こる背内側線条体コリン作動系による空間逆転学習の双方向制御にとって、少なくとも獲得学習時というよりも逆転学習時のコリン作動性神経細胞の活動が重要であるとの確証が得られた。但し、薬理学的手法においては、短い試行間間隔の課題とは異なり、長い試行間間隔の課題においてムスカリン作動性受容体の阻害によって獲得学習促進効果の傾向があったため、獲得学習における背内側線条体コリン作動系の役割に関しては引き続き留意していく必要性があることがわかった。また、化学遺伝学的手法を用いてより詳細に時期を特定してコリン作動性介在神経細胞の活動を制御するためにまず遺伝子改変ラットにウイルスベクターを接種する実験を行った他、逆転学習遂行中のラットの関連領域のLFPとMUAの解析システムの構築や予備的実験の遂行など、空間逆転学習の双方向制御において背内側線条体コリン作動性介在神経細胞とその関連神経回路が行動柔軟性を示す各段階においてにどのような動態を示しているのか、行動柔軟性双方向制御のメカニズムがどのようであるかを検討する準備を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
化学遺伝学的手法を用いて背内側線条体のコリン作動性介在神経細胞を時期選択的に活動抑制し、その間の学習課題における行動の柔軟性を検討するとともに、それの制御に伴う線条体マイクロサーキットの神経活動の様相を電気生理学的に検討する。今年度の薬理学的検討の結果から、獲得学習における背内側線条体コリン作動系の役割に関しては引き続き留意していく必要性がある。また、光遺伝学的アプローチによって、この検討によって認知柔軟性に重要であることが明らかとなった時期のうち、更に細分化したタイミングでコリン作動性介在神経細胞の活動抑制あるいは活性化させることで、コリン作動性介在神経細胞の沈黙を意図的に創出あるいは抑制することが、どのような認知柔軟性と線条体マイクロサーキットの変容につながるのかを検討する。以上の検討によって、背内側線条体コリン作動性介在神経細胞が認知柔軟性における線条体マイクロサーキットの動態変化に対してどのような役割を果たすのかを因果論的に考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた新しい電極作成用の部品(コネクタ)の購入に関して、米国業者の回答がなかなか得られないため購入できず、2018年度中に当該予算を執行できなかった。しかし、他の安価で入手しやすいが性能の劣る代用品で計画通りの実験を遂行した。次年度4月中に国内仲介業者からの対応があったため今年度中には米国より回答と納品が得られるものと考えられるので、当該予算を執行の上、新しい電極作成を行って計画通り実験を遂行する予定である。
|