人間の行動は環境と相互作用しながら連続的に変化するものだが、多くの心理学的研究では実験室で数秒から数分単位に分断された試行中の行動が検討されてきた。このような状況を打開するためには、日常的な環境で生じる行動について連続的なデータとして長時間測定し、分析する技術の確立が不可欠である。 本研究課題では、実験心理学で用いられる指標のひとつである眼球運動の長時間連続測定をを実現するために、安価に導入可能な眼鏡型眼電図装置による長時間連続測定の基礎的研究をおこなった。最終年度にあたる本年度は、昨年度より検討してきた独立成分分析と決定木を用いて眼電図波形におけるサッカードと瞬目の判別についての実験結果をまとめ、日本心理学会で発表し、論文にまとめた。申請当初の計画ではこの後さらに頭部を固定しない状態での眼電図測定とビデオ式眼球運動測定の同時測定実験を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行により実験の実施が不可能となったため、眼電図波形におけるサッカードと瞬目の判別精度の向上を目指して分析を行った。その結果、離散ウェーブレット変換を用いて眼電図波形を多重解像度分析し、その出力を3層のニューラルネットワークでサッカード、瞬目、固視のいずれかに判別する手法によって、独立成分分析と決定木を用いる手法よりも高い判別成績が得られた。ただし、参加者別に判別成績を詳細に分析した結果、多重解像度分析とニューラルネットワークによる手法で成績の向上が見られたのは眼電図データにノイズが少ない参加者のデータに限られ、ノイズが多い参加者では成績の向上が見られないことが示された。この結果は、眼電図測定時のノイズ対策の重要性を強く示唆している。
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