研究の目的:VR機器などの3D情報呈示装置を長時間利用すると、疲労感や酔いなどが生じることがある。これはヒトの3次元形状の知覚に関わる感覚情報統合プロセスが、個人差を含めた形では完全には理解されていないからである。特に日常場面で3次元形状判断を一貫して正しく行うために必要な、新しい感覚入力に基づいて表象を更新するプロセスは十分に理解されているとは言えない。本研究では、適応的な更新のための感覚情報処理と神経情報処理アルゴリズムを明らかにする。ヒトの表象更新プロセスを正確に理解した上で開発される視覚表示装置とそのための表示アルゴリズムの開発によって、現在のディスプレイがもつ疲労感や違和感を解消し、快適な視環境の実現に貢献したい。
2020年度は、3次元形状判断に関わる表象更新プロセスを明らかにするために行った脳活動計測データの解析および論文作成を行った。脳磁図データの解析では、2019年度に得た被験者のデータの磁気センサーおよび信号源解析を行い、新たな知見を公表する準備を進めた。さらに、実験で得られた眼電図のデータを分析することで、網膜外情報の定量化を行い、同時測定した脳磁図のデータと合わせて、両眼視および両眼眼球運動のための脳内メカニズムについて新たな知見を報告する手がかりを得た。
視覚実験では、視野の位置に依存して生じる錯視の生起メカニズムについての示唆を得る心理物理学実験を行い、得られた知見を国際誌に発表した。
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