本研究では,内部モデルの獲得過程における「順応と学習の境界」について明らかにすることを目的とした。具体的には,視覚運動順応課題における“アフターエフェクト”がモデルの切り替え能力を反映するという仮説,および,小脳が「モデルの獲得と蓄積」,基底核と頭頂葉が「モデルの切り替え」を担うという仮説を検証した。 初年度に確立された実験プログラムおよび解析手法に基づき,健常若年者および健常高齢者に加え,小脳損傷患者・頭頂葉損傷患者・パーキンソン病患者を研究対象に行動実験を実施した。実験の結果,先行研究において新規な内部モデルの獲得を間接的に示す行動指標であると考えられてきたアフターエフェクトは,運動学習の進行に伴い,経時的に減少することが明らかになった。この結果から,アフターエフェクトは内部モデルの獲得後にもなお続く運動学習の過程,すなわち複数の内部モデルの切り替えが上達していく過程をも示す指標であるということが示唆された。本研究の知見は,順応と学習が連続的に発展していくプロセスであることを支持する。 研究期間全体を通じて,関連論文が国際学術雑誌に掲載された他,国際学会における研究成果発表を行った。
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