本研究の主な目的は、刺激がどちらの眼に入力されたかに関する情報である由来眼情報(eyeoforigin)に焦点を当て、高次視覚情報処理における役割を詳しく解明することである。従来の研究では、由来眼情報は視覚処理の初期段階で両眼の情報が統合される際に失われると考えられてきたため、高次視覚への影響はほとんど注目されてこなかったのが現状である。 本研究では、視覚探索における注意捕捉や試行間プライミング、潜在学習といった実験パラダイムを応用し、注意や選好といった高次視覚処理における由来眼情報の役割を系統的に調査することを目的として実施しました。本研究によって、高次視覚においても由来眼情報が保存され、認知・行動に影響を及ぼしていることが明らかになれば、これまで考慮されていなかった脳内メカニズムの存在を示すことになり、ヒトの視覚系の解明に大きく貢献できると考えられる。 前年度に引き続き、本研究では視覚的注意処理だけでなく、幅広い認知メカニズムにおいても由来眼情報が影響する可能性について検討を行った。その結果、顔の異同判断を行う際に、2つの顔の由来眼が同一の場合に正答率は向上することが示された。さらにベイズモデリングによる分析を行ったところ、由来眼が情報蓄積の速度に影響を与えていることが示唆された。現在、この新しい知見について、さらなる検討を行い、詳細なメカニズムを明らかにしようとしている。ほかにも、視覚探索における潜在学習である文脈手がかり効果についても、由来眼の影響を示す実験結果が得られたため、詳細な検討をすすめている。これらの知見を総合することによって、由来眼情報の視覚システム全体への影響を総合的に評価することができると考えている。
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