研究課題/領域番号 |
18K03192
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中島 定彦 関西学院大学, 文学部, 教授 (40299045)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カオリン / 粘土食 / 乳糖 / マウス / 回転かご走行 / 味覚嫌悪学習 / 水泳 |
研究実績の概要 |
主たる研究として、乳糖溶液摂取によってラットに生じる体調不良が悪心によるものであるかどうかを明らかにする実験を複数実施した。具体的には以下の通りである。 ラットを含む多くの哺乳類では成体になると乳糖を消化できない。このため、与えられた乳糖溶液の摂取量は日ごとに減少していく。これは「乳糖の甘味」と「乳糖による体調異変」の連合学習、つまり古典的条件づけであるが、より詳しい心理・生理学的しくみについて、以下の2つの仮説間で論争がある。つまり、(1)甘味で吐き気を催すようになる嫌悪学習、(2)甘味が危険信号となる恐怖学習、である。ラットは吐き気を催すと土を食べることから、乳糖溶液を与えたラットが土(実験で用いたのはカオリン粘土)を食べるかどうかで、(1)と(2)のどちらが妥当であるかを調べた。実験1、2Aでは乳糖溶液を飲んだラットが土を食べること、実験2Bでは消化できる蔗糖溶液を飲んでもラットは土を食べないことを確認した。実験3ではこうした結果を1つの実験内で再現した。実験結果は、乳糖の吐き気を生じさせる特徴が乳糖溶液忌避の学習に関与することを示唆していた。つまり、上記(1)の「甘味で吐き気を催すようになる嫌悪学習」だという仮説を支持するものであった。 副次的な研究として、以下の実験を行った。ラットでは回転かご走行や水泳といった運動により味覚嫌悪学習が生じること、これはそうした運動によって生じる悪心の働きによるものであることがカオリン粘土摂取の増加から推察できる。マウスでも同様に運動性味覚嫌悪学習が生じることを複数の実験で確認した。 なお、関連テーマで昨年度までに実施した実験成果の報告や、運動性味覚嫌悪学習の展望についても、本年度に国際誌に論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナ禍により実験実施が危ぶまれたが、幸い動物実験に関しては、飼育管理の事情を大学側に理解いただき、計画した実験はほぼ予定通り行うことができた。ただし、アルバイト雇用しているシルバー人材センター会員の健康への配慮から、行う実験は厳選した。実施した実験ではすべて明瞭な結果が得られ、主研究である乳糖溶液による味覚嫌悪学習が悪心に基づくという仮説をカオリン粘土摂取によって証明できた。この成果は直ちに論文化して、年度内に国際誌に公開できた。副研究であるマウスの実験については走行性味覚嫌悪学習については国際誌に投稿し、現在審査中である。マウス水泳性味覚嫌悪学習は第1実験に成功し、現在第2実験を行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
主研究としてラットの悪心テストとしてのカオリン粘土摂取法を用いて、シクロフォスファミド投与による気分変化を測定すること、およびシクロフォスファミド投与によって生じる気分変化をカオリン粘土が緩和するかどうかを現在、実験的に確認中であり、この研究を継続して行う。あわせて、古典的条件づけの諸現象(具体的には阻止効果や無条件刺激先行呈示効果)が走行性味覚嫌悪学習において観察できるかを確認する。これらについても、予備実験をすでに行っており、実験手続き上の諸変数を操作してより明確な結果を安定して得られる実験方法を確立する。 副研究として、マウスの水泳性味覚嫌悪学習の実験を継続して実施し、国際誌への投稿・掲載を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により出席を予定していた国外の学術会議への出席ができなかったこと、国内の学会の年次大会についてもオンラインとなり交通費が発生しなかったことが理由である。研究期間の1年延長を申請して認められており、今年度の実験にかかる経費と論文の英文校閲料にあてることを計画している。
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