私たちが実際に行為を行うには、目標となる刺激を同定し、それに対する正しい反応を選択し、実行することが必要である。ターゲットとなる刺激と適切な反応を束ねる心的表象はタスクセットと呼ばれており、タスクセットの柔軟な切り替えは効率的な認知制御に欠かせないと考えられる。 本年度の研究では、タスクセット制御における言語の役割を検討するために、手掛かりに基づいてタスクセットを切り替えることを求め、言語的手掛かりと恣意的手がかりが刺激次元と反応次元のそれぞれに与える影響について検討した。また、刺激が呈示されるまでの準備時間も操作し、反応時間のデータだけでなく、視線計測データも用いて詳細な分析を実施した。その結果、どちらの準備時間であっても、恣意的な手掛かりよりも言語的手掛かりが呈示された方が、ターゲット刺激を同定する割合は高く、また素早く刺激を同定することが示された。また、刺激を同定してから反応するまでの時間についても、準備時間に関わらず、恣意的手掛かりよりも言語的手掛かりが早いことが示された。実験の前半ブロックと後半ブロックを分けて分析を行ったところ、実験の後半では、次の刺激が呈示されるまでに準備できる時間があれば、刺激を同定してから反応するまでの時間は言語的手掛かりと恣意的手掛かりの間で同程度となり、恣意的な手掛かりであっても練習にともないタスクセットを素早く活性化できるようになることが示唆された。一方で、準備できる時間がないときは言語的手掛かりが呈示された方が素早く反応することが示されており、言語的な手掛かりが与えられると、タスクセットを素早く活性化できることが確認された。
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