研究課題/領域番号 |
18K03194
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
則武 厚 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 助教 (80407684)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 報酬 / 自己 / 他者 / 視床下部外側野 / 多点同時記録 / 神経回路網 |
研究実績の概要 |
主観的報酬情報の生成過程を解明するため、R元年度は、サル二頭を同時に用いた社会的条件づけ下の視床下部外側野(lateral hypothalamus, LH)および中脳ドーパミン神経核 (以下、DA) の神経細胞活動の多点同時記録を行い、LH内・DA内、およびLH―DA間の神経情報の流れを確認した。サルLHおよびDAの単一神経細胞活動および局所電場電位の同時記録を行った。記録されたLHとDAの局所電場電位に対し、コヒーレンス解析を行ったところ、LH内においては、δ波-θ波といった低い周波数帯域によるコヒーレンスが認められ、協調的に活動していることが明らかとなった。DA内においては、刺激呈示直後、γ帯域で一過性に協調した活動が認められた。またLH-DA間においても、δ波-θ波といった低い周波数帯域でコヒーレンスが認められ、協調的に主観的価値生成に対して働いていることを示唆する結果が得られた。さらにLH-DA領域間の神経情報の流れを捉えるため、グランジャー解析を行ったところ、LH→DAという神経情報の流れを同定した。これらの結果は、これまで我々が構築した仮説、「内側前頭前野や視床下部外側野からの神経情報を中脳ドーパミン細胞が統合し、主観的価値を生成する」ことを支持するものであった。本年度の結果および関連する結果をまとめ、2020年度の日本神経科学大会にて報告する予定である。以上から、本研究の進捗は順調であり計画通りであるといえる。最終年度は、本研究で得られた結果をまとめ、学会発表や論文として投稿を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R元年度は、「LH-中脳(ドーパミン細胞)間の自他の報酬情報の流れを同定する」という目標に対し、多チャンネルの電極を用いてLHと中脳ドーパミン神経核 (以下、DA) から単一細胞外記録および局所電場電位の同時記録を行い、以下の結果を得た。 LHおよびDAの局所電場電位に対してコヒーレンス解析を行ったところ、LH内においては、刺激呈示中1-5 Hzの低い周波数帯域(δ波-θ波)でコヒーレンスの上昇が認められた。またDA内(同時にドーパミン細胞の神経活動が記録されたチャンネル間)においては刺激呈示直後40-70 Hz弱の周波数帯域(γ波)で一過性のコヒーレンスの上昇に加え、刺激呈示400 msから3-5 Hzの低い周波数帯域(δ-θ波)でコヒーレンスが上昇した。LH-DA間では、刺激呈示後から1-5 Hzの低い周波数帯域(δ波-θ波)でコヒーレンスが上昇した。さらにグランジャー因果解析を行ったところ、主に、LH→DAという神経情報の流れを確認した。これらの結果は、視床下部外側野からの神経情報を中脳ドーパミン細胞が統合し、主観的価値を生成することを示唆しており、我々の仮説をサポートするものである。 以上から、本研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られた内側前頭前野(以下、mPFC)-LH-DAにおける神経情報の流れをまとめ、LHにおける主観的報酬価値の生成のアルゴリズムを探求する。 これまでの結果から、LHの神経活動はどの程度自己の報酬を得られるかという正の期待や動機づけを反映しているだけではなく、どの程度報酬を得られないかという負の期待や動機づけを反映していることが示唆されている。LHのこのような正負の主観的報酬価値表現が、異なる細胞群で自他の報酬を表現するmPFCと正の主観的報酬価値を表現するDAとどのように関係し、どのような報酬情報を用いればmPFC-LH-DA間の神経情報の流れとなって主観的報酬価値の生成につながるかを考慮し、そのアルゴリズム解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
関連論文出版に注力し、予定していた学会の参加が減ったため、旅費の減少が生じた。次年度において、この減少分を解析用パソコンやHDD購入に充てる予定である。
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