研究実績の概要 |
本研究では、ヒト前頭極を賦活することが報告されている各種の認知課題をニホンザルに訓練し、これらの課題遂行中のサル前頭極の神経活動(spiking activity, LFP)を解析することで、前頭極機能の解明を試みた。 今年度は、昨年度までに得られたデータの解析と、追加データの取得を行った。具体的には、実験に用いた8種類のタスク(a.刺激受容課題(2種類); b.単純運動反応課題(1種類); c.高次認知課題(5種類))において、前頭極から約2000個、後方の前頭極に隣接する前頭連合野外側部(dv46野, dv8a野)から約2400個、の単一ニューロン活動データが昨年度中に得られていた。今年度の解析結果:(a)の刺激受容課題では、前頭極ニューロンは各種の視覚刺激の単純呈示に殆ど応答しなかった。しかし、フリーリワードに対しては、前頭極とdv46野, dv8a野ニューロンはほぼ同じ割合(約35%)で応答した。LFP解析(ERP, high‐γ活動)においても同様の結果が得られた。(b)の視覚誘導性サッカード課題では、前頭極ニューロンは運動実行前後に殆ど応答しなかった。一方で後方のdv46, dv8a野は、前頭極から遠ざかるほど感覚刺激に応答するニューロンと運動前後に強く応答するニューロンの割合が高くなった。(c)の高次認知課題では、前頭極ニューロンは二重課題と新奇視覚刺激の価値学習において課題中殆ど応答しなかった。前頭極が顕著な応答を示した唯一のタイミングは、試行の成功/不成功が報酬としてフィードバックされるタイミングであった。当該試行に正答し報酬が出た時のみ、報酬出現のタイミングをピークとする一過性の活動が観察された。前頭極より後方のdv46野, dv8a野のニューロン(LFP)は、高次認知課題中に、課題のあらゆるイベントに対して顕著な応答を示し、課題処理に不可欠な関与をする、"task-general processor"として機能することが明らかになった。
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