研究課題/領域番号 |
18K03204
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
榎本 直也 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (50565710)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 写像類群 / 表現論 / Johnson準同型 / quasi-invariant |
研究実績の概要 |
本年度は、曲面の写像類群に関するJohnson準同型の余核の構造を表現論的に解明する研究とquasi-invariantのなす環の構造と超平面配置の自由性に関する結びつきを表現論的な手法で解明する研究を行った。 Johnson準同型は、曲面の写像類群のトレリ部分群を、シンプレクティック微分のなすLie環の中に近似するものである。この像の大きさを評価することは、写像類群に関する重要な問題のひとつである。Enomoto-Satohにより、従来から知られていたMorita障害を含むより大きなクラスを導入し、その大きさを表現論的な観点から測ることが可能になった。本年度は、Kawazumi-Kuno,Alekseev-Kawazumi-Kuno-Naefによって導入されたトポロジカルな構造を表現論的に解析した。特に、framingの有無によって生じるgapには、Enomoto-Satohで同定したanti-Morita障害[1^k]以外にもEnomoto-Enomotoで同定したhook型の既約成分が含まれることを示し、Satoh氏,Kuno氏との共同研究として論文を出版した。 quasi-invarinatは、Calogero-Moser系という量子可積分系の研究において精力的に用いられてきた概念で、多項式環とワイル群不変式環の間のフィルタレーションを与えており、その構造は有理Cherednik代数の表現論を用いて記述されている。本年度は、quasi-invariantのなす環と超平面配置に付随する様々な概念との間の対応関係について研究を進めていた。 また、本年は、「Algebraic Lie Theory and Representation Theory 2019」を共催し、国内外の最新の研究状況について情報交換を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
曲面の写像類群に付随するJohnson準同型の余核の構造の研究において、Enomoto-Satohにより導入した表現論的なアプローチは、余核の大きさを定量的に評価できる手法である。これまでにもMorita、anti-Moritaおよびhook型の既約成分を同定してきた。Kawazumi-Kunoにより導入されたGoldman-Turaev Lie 双代数とTuraev 余括弧積を用いたJohnson余核の研究は、Kashiwara-Vergne問題との新しい関わりを開いた。本年度は、Kawazumi-Kuno,Alekseev-Kawazumi-Kuno-Naefによるアプローチについて、framingの有無による余核の大きさのgapをEnomoto-Satohで用いた表現論的な手法で定量的に評価する結果を得た。特に、framingの有無によるgapには、anti-Morita障害だけでなく、hook型の既約成分の系列も含まれ、その差は必ずしも小さくないことを示した。これらの一部を論文として出版した。 quasi-invariantのなす環の構造と超平面配置の自由性を結びつける結果を得ており、論文にまとめている。
|
今後の研究の推進方策 |
曲面の写像類群に付随するJohnson準同型の表現論的な解明に関しては、余核の構造の解明はまだ道半ばであり、圏論化や幾何学的表現論の手法なども念頭に置きつつ模索する。近年、例えばHainによる混合ホッジ構造を用いた研究やGrothendieck-Teichmuller群を用いた研究など、新たな視点が登場していることも踏まえ、それらの表現論的な理解を目指したい。 quasi-invariantと超平面配置の関係を表現論的に理解する研究については、引き続き、超平面配置における重要な概念である原始微分を表現論の側から意味づける方向性を模索する。この分野は、有理Cherednik代数の表現論と量子可積分系、超平面配置などが関係しており、Hessenberg多様体や様々な幾何学的対象との関連も示唆されている。組合せ論的・幾何学的な表現論の手法を用いて、これらにアプローチすることも目指す。
|