研究実績の概要 |
L関数と数論的不変量の関係をp進的視点から考えることが岩澤理論である. p進理論の新しい側面として複素数体上離散的なパラメータがp進体上連続的になり, 多くの変形やL関数が考えられる点がある. 円分p進L関数の他, 反円分指標で捻った反円分p進L関数, 肥田族のp進L関数も考えられる. p進L関数の一般論の枠組みは, CoatesとPerrin Riouにより正確に予想され様々なモジュラー形式のp進L関数が構成されている. 特にGL(2)のp進L関数は, モジュラー表象や積分表示, Euler系など様々な角度から構成されている. しかし, 高次p進L関数の研究は非常に限られている. この原因の一つにp進L関数の構成の難しさがある. 楕円モジュラー形式の三重積L関数は1987年にPaul Garrettにその積分表示が発見されて以来, その解析的研究や算術的研究が多くの研究者により蓄積されていた. そのp進的性質に関しても市野公式を用いて, 肥田変数の非バランス型3変数中心値p進L関数がDarmon-Rotgerらにより構成され, 楕円曲線の研究に応用された. 現在, バランス型やColemann族, 非分裂型など様々な角度から活発な研究が進められていたが, 全て肥田変数に関する中心値p進L関数ばかりであり, 円分p進L関数の研究は発展途上であった. 筆者と台湾国立大学のMing-Lun Hsieh教授は, Garrettの積分表示をp進化することで, 3つの肥田族の分裂バランス型4変数3重積p進L関数を積分表示により構成した. 筆者とMing-Lun Hsieh教授は, 4変数p進Eisenstein級数を構成し, 全てのバランス臨界値補間公式を得た. さらに三重積L関数の中心微分値と対角サイクルの高さを関連付けるGross-Kudla予想のp進類似を定式化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筆者らの構成した円分変数を含む4変数p進L関数では, (p上も含めて)若干の分岐も許容している. 導手が平方因子を持たない楕円曲線のモジュラー形式に適用して得られる3つの楕円曲線の円分三重積p進L関数が興味深いと考えられる. このp進L関数の持つ算術的情報を探ることは今後の重要な課題である. 岩澤理論の主題は, p進L関数とセルマー群という異質な対象を結び付けるもので, 岩澤主予想と呼ばれる. 現在筆者とMing-Lun Hsiehは, 3重積p進L関数の円分微分値と志村曲線の3重積の対角サイクルのp進高さの関係を研究している. 高さとはサイクルの算術的情報を測る目盛であり, 算術多様体での交点数と関係している. GrossとZagierが証明した楕円曲線のHeegner点の高さとGL(2)のL関数の中心微分値の等式は現代数論に重大な影響を及ぼしている. 筆者とMing-Lun Hsiehの研究はPerrin RiouらによるGross-Zagier公式のp進類似の高次元化にあたる公式を定式化した. 筆者らが構成したp進Eisenstein級数のp進微分(解析サイド)と対角サイクルのp進高さ生成関数(幾何サイド)の等式を導くことで, この公式が証明できると考えられる. Gross-Keatingのモジュラー曲面の交点数とEisenstein級数のフーリエ係数の関係を用いて, 筆者は両辺の分解が幾何サイドの悪い因子とpでの因子を無視すれば, 一致することを証明した. 三重積L関数は現在活発に研究が進展している分野であり, 筆者が構成した4変数p進三重積p進L関数は今後の重要な研究素材である. その算術的情報を調べるには, 幾何的にも岩澤理論的にも大きな困難が控えているが, それらは織り込み済みであり, p進理論や表現論に派生する問題を研究しつつ, 長期的視点で研究を推進しきたい.
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今後の研究の推進方策 |
筆者とMing-Lun Hsiehの予想を証明するには, 分岐素点やp上で幾何的項と解析的項を比較しなければならない. 高次元では志村多様体の整モデルの特異点が複雑になり, 分岐素点で退化した交わりが発生する. Gross-Zagier公式の証明では, Heegner条件を課すことで, 分岐素点での交わりを回避することができたが、高次元での退化した交わりの発生を抑えることは難しい. 安定モデルを上手く構成して交点数を計算するか, 悪い因子とpでの因子がある状況で無視できることを示すことが今後の課題である. p進Gross-Zagier公式のp上での解析には, KolyvaginがHeegner点に関して考えたEuler系が背後にあると思われる. 本研究では, 対角サイクルに関してEuler系を探してみたい. pでも分岐素点でも高次元では多くの困難がある. これらの問題点をより深く探るために非分裂型でも三重積p進L関数を構成し, Gross-Zagier公式に当たるものを探求することを検討している. この研究計画のために2019年度には, 交点理論などの必要な幾何的知識を増やすとともに, 岩澤理論の研究集会に出席講演して人脈を広げつつ, 保型形式の研究集会を組織して人を集め, 両分野の数学者の交流を深めたい.
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