研究実績の概要 |
p進L関数の補間公式は, 複素L関数とp進L関数の値のズレを測る修正項を伴っている. 興味深いことに, この修正項が関数等式の中心において零点を持つことがある. このとき(複素L関数の中心値が0でなくても)p進L関数の中心値は0になってしまう. このような零点は例外零点と呼ばれている. 楕円曲線のp進L関数が例外零点を持つには, pで分裂乗法的還元を持つことが必要かつ十分である. このときのp進L関数の微分値と複素L関数の中心値の関係式が, Mazur-Tate-Teitelbaumに予想され, 肥田理論を使ってGreenberg-Stevensに証明された. 本年度に台湾国立大学のMing-Lun Hsieh教授と筆者は, 三つのp通常楕円曲線に付随する三重積p進L関数の例外零点を決定し, その(高階)微分値と複素L関数の値の関係式を証明した. 三つのGL(2)の保形表現は, 中心指標の積が自明であるときに, その三重積L関数の中心値とモジュラー形式の対角積分の二乗との関係があることが知られていた. この関係は標準的局所不変三重線形形式を使って明示的関係式として与えられ, 市野公式と呼ばれる. この三重線形形式が0でないこと局所イプシロン因子の符号で判定できる. 市野公式は数論に多くの応用を持つことが知られている. 例えば, Henri DarmonとVictor Rotgerは, 市野公式を使って, 三重積p進L関数の値と対角サイクルのAbel-Jacobi像と結び付け, 楕円曲線の有理点の解析に応用した. 筆者とMing-Lun Hsiehは市野公式を中心指標の積が二次指標の場合に拡張したことに加えて, 不変局所三重形式を構成し, それが0でない必要十分条件を局所ガンマ因子で記述した. さらに筆者とMing-Lun HsiehはHilbert-Eisenstein級数の対角制限を計算して, あるp進L関数の微分値とStark-Heegner点のp進対数の関係式を導いた. この研究はDarmon, Pozzi, Vonkの最近の研究の一般化である.
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今後の研究の推進方策 |
市野公式はGross-Prasad予想の特別な場合であり, Gross-Prasad予想は, 自己双対的な保形表現のL関数の中心値と周期と呼ばれるモジュラー形式の積分の関係式であり, 活発に研究され、様々な応用が研究されている. 筆者の市野公式の拡張は, 自己双対的でない保形表現を扱い, 局所理論ではイプシロン因子の代わりにガンマ因子が現れるなど新しい特徴を持っている. この公式の応用や高次元化を考えてみたい. そのために興味深い具体例を探すことから始める予定である. 三重積p進L関数や様々なp進L関数に関しても, 円分微分値や重さ微分値を対角サイクルなどの幾何学的観点から研究を進めたい.
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