研究課題/領域番号 |
18K03218
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
津村 博文 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (20310419)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 整数論 / 代数学 / ゼータ関数 |
研究実績の概要 |
今年度は、昨年度に引き続き、連携研究者の松本耕二教授(名古屋大学)および小森靖教授(立教大学)との共同研究において、多変数のWittenゼータ関数(ルート系のゼータ関数)についての関数関係式の母関数を定義して, 新しい関数関係式の族を構成した。この変数に正の整数値を代入することで、これまで知られていなかったルート系のゼータ関数の特殊値を、明示式を記述した。これらの結果が Advanced Studies in Pure Mathematics の84巻 `Various Aspects of Multiple Zeta Functions' に掲載された。 また、本研究テーマの一つである多変数の多重ゼータ関数の一つである多重ポリログのレベル2版と見られる関数の特殊値(多重T値)に関して、金子昌信教授(九州大学)との共同研究が継続的に進んでいる。金子氏との共著論文が Tsukuba Journal of Mathematics に掲載された。この論文では、多重T値の張る空間の次元に関するものなど、重要な予想を提起している。また、関連する結果としてレベル2のポリベルヌーイ数にあたるポリコセカント数に関して、金子氏およびPallewatta氏との共著論文が Journal of Integer Sequences に掲載された。これらの論文は、今後のこの分野の進展のために重要なものであると考えられる。 ただし、新型コロナウイルス蔓延に伴って、当初予定していた国内外の出張、研究集会等への出席が困難となったため、研究期間を2021年度まで1年間延長することを申請して、延長が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、研究目的として計画していたもののうち、ルート系のゼータ関数の関数関係式の母関数を示せたことなどにより、当初の予定通りの結果が得られたと思われる。その結果として、これまで得られていなかった特殊値についても、興味深い結果が得られたように感じられる。その証明には、超平面配置に付随する多重ゼータなどの考察が不可欠になってきており、より一般的な枠組みでの研究が必要とされることが想像される。 また金子氏との多重T値の研究については、双対公式をはじめ、想像していたよりも深い結果が得られて、研究目的は十分に達せられていると思われる。多重ゼータ値に関して示されている結果のきれいな類似的公式などが得られたため、多重T値がかなりよい構造を有した研究対象であることが実証されてきた。その結果として出てきたレベル2の次元予想に関しては、海外の研究者との研究交流で、数値的な予想結果などは得られつつあるが、明示的な定式化を含め、今後に向けての課題は少なくないと考えられる。新たな側面からのアプローチも必要となってくると思われる。金子氏およびPallewatta氏と取り組んでいるポリコセカント数に関しても、定義を一般化することで、より広いクラスに関しても双対定理などの一般的な性質が成り立つことが分かってきている。ポリベルヌーイ数の概念は、Arakawa-Kaneko型ゼータ関数を挟んで、種々の多重ゼータ値と密接に関わっているので、同時並行的に研究を進めて行く必要があるため、本研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況で述べた通り、多変数のWittenゼータ関数(ルート系のゼータ関数)の研究は当初の計画を達成できていると考えられるが、Parity result の定式化、例外型ルート系の考察などいくつかまだやり残している課題があるため、今後も松本氏、小森氏とは共同研究を継続していく。 金子氏との多重T値やポリコセカント数の研究などについては、派生的に多くの興味深い問題を生み出しているため、今後も力を入れている必要がある。本研究は(延長を認められたことで)あと1年を残すのみとなっているが、周囲の研究者も含めて、関連研究を進めて行くことが重要となる。この件についても、小森氏と共に研究している一般線形群に付随するゼータ関数のアプローチが有効であることが確かめられつつあるので、これについても研究を継続していく。現在までに得られている結果について、2021年2月にオンライン開催された「第15回多重ゼータ研究集会」で研究発表を行ったところ、多くの研究者から助言や関連結果の情報が寄せられた。それらを参考にして、研究を進めて行きたい。また、既に研究交流を行っている海外の数学者とも連絡を密にしていく。とくに研究概要で述べた、次元予想の考察について協力的に進めていきたい。 ただし、現在の新型コロナウイルス蔓延の状況が不明確なため、国内外の出張、研究集会等への出席がどれほど可能なのかが、現時点では判断できない。状況を確認しながら、可能な範囲で現実的な対応を検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた国内外の学会や研究出張がコロナ禍で中止、および延期またはオンライン開催になり、予定していた予算執行が不可能となったため、研究期間の1年間の延長を申し出て承認された。2021年度に可能な形での研究出張を再計画し、予算執行に努める。そのために、関係者との調整を行っている。
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