研究課題/領域番号 |
18K03221
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 修司 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任准教授 (20635370)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多重ゼータ値 / 多重ゼータ関数 / 川島関数 |
研究実績の概要 |
川島関数とは,多重調和数(=等号付き多重ゼータ値を定義する級数を有限項で切った値)をニュートン級数で補間して得られる関数であり,多重調和数のみならず多重ゼータ値自体にも強い関係を持つ.本研究では川島関数と多重ゼータ関数との関係性をより深く追求し,多重ゼータ値(=多重ゼータ関数の正整数での値)のみならず非正整数での多重ゼータ関数の値にも応用の道を見出そうとしている.基本的な着想は,川島関数の原型であるダイガンマ関数について,無限大における漸近展開の係数がリーマンゼータ関数の非正整数における値で表されるという,古典的によく知られた事実に基づき,川島関数の漸近展開公式から多重ゼータ関数の値についての情報を読み取ろうということである. 本年度は,川島関数の諸性質・諸公式をまとめた概説論文“A note on Kawashima functions”,および多重調和数のHoffman双対性とその拡張を級数論的に証明した論文“Ohno-type identities for multiple harmonic sums”(関真一朗氏との共著)を出版した.後者は川島関数そのものを扱ったものではないが,ここで導入している連結和 (connected sum) の手法は多重調和数のような級数を研究する上での新視点を開くものであり,川島関数にも応用可能であると期待している.また,指数が2以上の場合に関する前年度の結果を受けて,指数が1を含む場合の漸近展開公式について幾つかの計算例を得たが,その結果を解釈し,一般の場合を予測するのはまだ困難であり,次年度も引き続き研究する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は川島関数の理論を多重ゼータ関数の研究に応用することを目的とする.その基本方針は,川島関数の漸近展開公式を通じて非正整数における多重ゼータ値を考察することと,川島関数自身のインデックスを非正整数に拡張して,多重ゼータ値との関係を含めた諸性質を探求すること,の二つである.前者については,前年度に得られた結果(全てのインデックスが2以上の場合の展開公式)を他の方法による非正整数多重ゼータ値の計算と比較し,強い類似性を確認したが,明示的な関係式を得るには至っていない.またインデックスが1を含む幾つかの例について計算したところ,予期しない形で調和数が現れるケースに遭遇した.一方,川島関数自身を拡張する後者の方向については,前年度に得た積分表示を適切に変形することで,非正整数のみならず複素数に拡張できそうだ,との着想を得た.どちらの方向でも目に見える形での結果には至っていないが,問題意識を新たにする発見があったことから,総合的にみて概ね順調に推移していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
複素指数の川島関数を定義し,指数に関する解析性を調べるとともに,従来の川島関数についての諸公式を複素指数に拡張すること,またそれを多重ゼータ関数と結びつけることを考える.特にテイラー展開の係数を多重ゼータ関数で表し,いわゆる川島関係式の一般化を得ることができれば非常に興味深い成果になる.また漸近展開公式についても,まず実部が1より大きな複素数の場合を扱い,そこから1に近づけるという方法を試みる.漸近展開の係数のパラメータに関する連続性や解析性については一般論を把握できていないため,まずはそのような先行研究を調べ,無ければ必要なだけの枠組みを新たに構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの対応措置により,3月の研究集会等の予定がキャンセルとなり,未使用額が生じた.それ以外は概ね予定通りの使用状況であったと考える.新年度もしばらくは移動や集会を自粛すべき状況が続くとみられ,その間は出張旅費の使用は控えざるを得ない.現時点で先を見通すことは困難であるが,年度後半には旅費使用も可能になることを期待しつつ,当面は書籍等の消耗品購入や,オンラインでの共同研究を支援するウェブサービスの利用料としての使用を想定している.
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